刺繍 [青空文庫]

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  • 青空文庫
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  • 手軽に読める短編を探していて読んでみた。
    数年前に別れた20歳以上年下の妻の姿を街角で見かけた大塚さんは、自宅に帰って来てから過去の妻との生活を回想しつつ、生活の名残を探してまわる。実家に帰すときに、妻のものは全て送ってしまっていたが、箪笥の中から唯一彼女が手縫いした刺繍が見つかり、大塚さんは赤い薔薇の花弁が彼女の唇を思わせるそれに顔を寄せるのであった。
    書生と仲睦まじげだったことや、自分が手伝わなければ何もできないといった書きっぷりが読んでる途中から若干冬子を思わせると感じたのだが、調べてみたらやはりこの作品は冬子が亡くなってから書かれたものらしい。冬子の趣味が刺繍であったこともそのまま作品の題名に用いられているくらいである。そう思うと、どうして彼女を大事にしなかったのか、と己を責める姿がさみしく映る。実際の夫婦の別れは死別であったけれども、こういう可能性があった、ということを死後から振り返っているというのは何とも切ない。

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著者プロフィール

1872年3月25日、筑摩県馬籠村(現岐阜県中津川市馬籠)に生まれる。本名島崎春樹(しまざきはるき)。生家は江戸時代、本陣、庄屋、問屋をかねた旧家。明治学院普通科卒業。卒業後「女学雑誌」に翻訳・エッセイを寄稿しはじめ、明治25年、北村透谷の評論「厭世詩家と女性」に感動し、翌年1月、雑誌「文学界」の創刊に参加。明治女学校、東北学院で教鞭をとるかたわら「文学界」で北村透谷らとともに浪漫派詩人として活躍。明治30年には第一詩集『若菜集』を刊行し、近代日本浪漫主義の代表詩人としてその文学的第一歩を踏み出した。『一葉舟』『夏草』と続刊。第四詩集『落梅集』を刊行。『千曲川旅情のうた』『椰子の実』『惜別のうた』などは一世紀を越えた今も歌い継がれている。詩人として出発した藤村は、徐々に散文に移行。明治38年に上京、翌年『破戒』を自費出版、筆一本の小説家に転身した。日本の自然主義文学を代表する作家となる。

「2023年 『女声合唱とピアノのための 銀の笛 みどりの月影』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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