怪夢 [青空文庫]

著者 :
  • 青空文庫
  • 新字新仮名
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感想 : 3
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感想・レビュー・書評

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  • この作品は6つの短編で構成されている。どの話も語り手は「私」であるが、それぞれの話の中でまったく別の状況に置かれた「私」が話を進めていく。置かれた状況の違いや「私」の性格の違いを考えると、それぞれの短編の語り手は別の人間と考えるのが妥当かもしれない。しかし、この作品のタイトルが『怪夢』であることを考えると、6つの短編すべてが一人の人間の夢の話とも考えられる。
    「怪」という字には不思議や不気味という意味があり、「夢」は寝ている間に見る夢や将来の夢などの意味だけではなく、非現実的な空想という意味や心の迷いといった意味もある。どの話もどこか現実味があるようで現実味がなく、不思議で不気味な印象を与える話で、これらが睡眠中の夢の中で起きた非現実的な出来事だと考えるのは至極まっとうなことだ。しかし、私はこれらがすべての「私」のもととなった人間の突飛な空想によって作り出されたものだと考える。ある一人の人間が、自分の理想や別の自分を空想で思い描いたものがこの作品に出てくる「私」なのではないか。ただ、この作品の中に出てくる6人の「私」が全員碌な目にあっていないことを考えると、空想としては違和感があるかもしれない。自由に好きなことを好きなだけできるのが空想の世界である。自分がひどい目に合う想像を好んでする人はほとんどいないといってもいいだろう。しかし、悲観的になった人間ならどんな想像をしても良い方向に事が進まないということはあるのではないか。この空想をした人間は現実でうまくいかず、そのことが空想の世界にまで影響を及ぼし、思い通りにいかない想像しかできなくなってしまったのではないか。また、その人間が精神的に追い詰められた状況にあったとすれば、幻覚や幻聴といった症状によって不思議な出来事がもたらされたとも考えられる。
    そして、「世界の涯(はて)の涯まで硝子で出来ている。」から始まる6つ目の短編は、すべてが硝子でできた幻想的な世界が舞台である。この話では最後、「私」はこの幻想的な世界の端から落ち、無限の空間を落ち続けることになる。これでこの『怪夢』という作品自体も終わりである。硝子の世界を空想の世界とし、無限の空間を現実とするなら、この出来事は空想から現実へ引き戻されることを表しているのではないか。また、落ち続けるという状況は現実からは逃れられないという暗示なのではないかと考えられる。
    長くなったが、6つの物語の背景に一人の人間がいると考えると、それぞれを独立した話として読んだ時とはまた違った読み方ができるのではないかと思う。

  • 短編集なんだけど、どれも怖い。
    「工場」は初っ端から嫌な予感しかしなかった。安全管理とかまじで大丈夫なのかよというマジレスを考えながらも、機械が人間を「呑み込んでいく」(字面通り)光景を想像させるような文章がオドロオドロシク怖かった。夢野久作らしいわ・・・。
    「病院」はどこか皮肉を感じさせる。マッドサイエンスの末路ともいえるか。
    「七本の海藻」は意味が分かると怖い話。そして、こういうのを考え付いてしまう夢野久作の精神状態を少し疑ってしまう。こういうとこ乱歩に通じるとこあるかも。「硝子世界」もオチとか世界観は乱歩に通じるとこあるなーとか。

  • もう一人の自分との出会い。
    それは夢だからなせること。
    本来なら起きえない。自分と全く同じ外見をしている人が目の前に存在しているからといって。あれが自分だとは言わない。そういっている自分が今ここに存在するから。
    だけど、夢の中なら自分と出会える。夢はそれを見ている時、夢だとは決して疑わないから。わたしであり、あなたである、そんな瞬間が保証されるのが夢。けれど覚めれば忘れてしまう。怪しい夢。
    もうひとりの自分と出会う時、それは生きながら死んでいる、存在しているが存在していない、ほんとうのことに気付ける。なんともグロテスクで残酷な真実。
    彼は突飛で奇妙なな空想をしているのではない。存在の中で生きるひとりの人間だ。

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著者プロフィール

1889年福岡県に生まれ。1926年、雑誌『新青年』の懸賞小説に入選。九州を根拠に作品を発表する。「押絵の奇跡」が江戸川乱歩に激賞される。代表作「ドグラ・マグラ」「溢死体」「少女地獄」

「2018年 『あの極限の文学作品を美麗漫画で読む。―谷崎潤一郎『刺青』、夢野久作『溢死体』、太宰治『人間失格』』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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