少女地獄 [青空文庫]

著者 :
  • 青空文庫
  • 新字新仮名
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感想 : 12
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感想・レビュー・書評

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  • 幻想文学で有名な夢野久作の作品。この『少女地獄』は、『何んでも無い』『殺人リレー』『火星の女』の三編からなる短編集となっている。どれも共通しているのは、物語一つにつき一人の少女が主人公であること、その少女たちがさまざまな理由から周囲を巻き込んで、混乱させ、地獄へ誘うという点だ。
    『何んでも無い』は虚言癖であるがゆえに自ら追い込まれていく少女『姫草ユリ子』、『殺人リレー』はバスの女車掌であり、亡くなった友人の仇を討とうとする少女『友成トミ子』、『火星の女』は自分の容姿にコンプレックスを持ち、孤独な生活を送っていたが、あることをきっかけに自らの死をもって復讐へと走る女学生『甘川歌枝』を軸に、それぞれ物語が進んでいく。
    この作品の面白さは、物語が醸し出すリアリティと魅力的な文章表現だ。非現実でありながらも現実でも起こりうるように思わされてしまう。また、独特の文章表現が登場人物に色を濃く付け、彼女たちをより一層引き立てている。『火星の女』では、自らの死を使った復讐のことを復讐相手への薬と表現しており、それが恐ろしくも的を射た言葉であり、また自然とそう思わせる作者の表現力に感銘を受けた。
    それほど長い話でもなく読みやすいため、ぜひ一度読んでみてほしい。

  • ドグラ・マグラがきつかったので。
    「何でもない」「殺人リレー」「火星の女」の三つの短編から成る怪奇ものといってもいいのだろうか。
    一見独立した話のように見えるがどうもそうには見えない。

    「何でもない」の少女は虚構の天才。そんな彼女が書く遺書は果たして真実か。「火星の女」に登場する、嘘にまみれた生活をしてきた優等生、行方不明の愛子のように思える。彼女の遺書と思われるものを届けた謎の紳士。それは、背格好からして「殺人リレー」の新高のようにも見えるし、字の汚さからして焼身自殺をしたとされる火星の女であるとも思える。彼女の歯形は’少年’と鑑定されている。

    最初の話が虚構である以上、「火星の女」の大部分を占める遺書も、二人の創り上げた大いなる虚構かもしれない。当事者が自殺・行方不明・発狂している以上、真実はもうわからない。
    いや、それ以上に、虚構を生きる少女たちの実在は果たして真実なのか。語られているのが、手紙という言葉の形式である以上、もうすでに真実から遠のいている。
    そうすると、死んだのは誰なのか。手紙を書いたのは誰なのか。当事者たちが接してきたのはいったい誰なのか。
    虚構と現実の間を融かした夢野久作さんのテクニックが畏ろしい。

    だが実際には、虚構と現実に区別はもとからないのだと思える。夢か現実か、区別を与えているのは他でもない、この’自分自身’に他ならない。胡蝶の夢の故事はその辺のことをうまく表していると思う。

    何かを’語る’ということは、この’自分自身’が紡ぎだす、物語に他ならない。この自分を超えることなしには、夢か現か、誰にも問えない。そういう意味で、物語に関して、それが本当かどうかなんて、問うことは意味をなさないのだと気づく。



    最近、とある人がブログで、次のようなことを述べていた。

    「歴史に学ぶ」とは、事実のみを正確に学び、過ちを繰り返さないように自らを律し、将来への糧とすること。

    だけど、歴史が歴史家による物語である以上、事実かどうかなんて誰にも判断できやしない。’事実’のみを正確に学び取ることなどできない。だから、この人が述べる歴史から学ぶということと、韓国や中国で取り上げられる誤った歴史観の教育との違いはどこにもない。

    歴史とは作り事であるということに気づくとき、今・ここになぜだかこの自分が存在してしまっていることがなんだか奇妙で仕方ない。

  • 「ドグラ・マグラ」が代表作の夢野久作の作品。
    この小説は、「何んでも無い」「殺人リレー」「火星の女」からなる短編小説集で、書簡体形式で書かれているため、今の時代でも読みやすい小説となっています。
    この短編集で一番心に残った文章は「何んでも無い」の『彼女を生かしたのは空想です。彼女を殺したのも空想です。ただそれだけです。』という文章です。この物語に登場する姫草ユリ子は虚言癖で、様々な嘘をつき結局はその嘘から身を滅ぼしてしまいます。最初は可憐な少女としてふるまっていた彼女の行き過ぎた虚言が、自分の首を絞めていった様子がよく表されている文章だと感じました。完璧だった彼女の嘘がだんだんと剥がれ落ちていく違和感に気づいたときゾッとするものを感じました。
    この小説は、その虚言癖の姫草ユリ子の遺書から始まります。最初に読んだときは遺書の通り、姫草ユリ子は亡くなったと解釈していました。しかし、何回も読み返すうちにこの遺書も姫草ユリ子の虚言の一部という解釈もできるのではないかと感じるようになりました。是非皆さんもこの小説を読み、自分なりの解釈を見つけ出してみてください。

  • 怪奇色と幻想性の色濃い作風で名高い夢野久作。この「少女地獄」は「何でも無い」「殺人リレー」「火星の女」の三つの短編で構成されています。私は高校生のときに彼の最も有名な作品である「ドグラ・マグラ」を読んでみようと思ったのですが、話の展開が複雑すぎて断念した記憶があります。だから、比較的読みやすいというレビューが多かった「少女地獄」を読んでみようと思いました。読んでみての感想ですが、確かに普通の小説のようで話の展開にもついていけて分かりやすかったです。どの短編も面白かったのですが、個人的には「何でも無い」が一番いいなあと思いました。まずこの作品の軸となる「姫草ユリ子」という人物の名前の文字列がとても美しく、まさに可憐な美少女という雰囲気を表していて好きです。非常に優秀な看護婦であり、巧みな立ち回りのよさで誰にでも好かれ、病院のマスコット的な存在だった彼女が実は嘘に嘘を重ねた上で成り立っている存在であり、虚構世界が一気に崩壊した後に自死を選び、しかも遺言状においてさえ嘘を演じ続ける、というのがなんというか不安定で危うい少女性をすごく的確に表していて、同い年の一人の少女としてユリ子を抱きしめたくなりました。作風、言葉選び、テンポ、ストーリーの全てが、彼女の無垢で誰よりも可愛らしくて、でも怖くて悲しくて残酷な魅力をうまく表現しています。特に作品の最後にある「彼女を生かしたのは空想です。彼女を殺したのも空想です。それだけです。」という文がお気に入りです。彼女の人生そのものを表している一文であり、逆にこの一文だけで表せてしまうくらいの人生だったんだなと少し悲しくなりました。自分で吐き続けた嘘に最後は自分が殺されてしまう。まさにタイトルの通り、もう抜け出すことのできない「地獄」だと思いました。私もユリ子と同じ19歳で、日頃から「可愛い」「可愛くない」という言葉に左右されてしまい、よく「可愛さ」とは何なのだろうと考えてしまうのですが、最近可愛さとは「儚さ」だと思うことが多いです。少女のように、ユリ子のように、可憐で純粋で綺麗で、でもどこか危なっかしくて不安定でフッと消えていなくなってしまいそう、だから今ここにいる瞬間を好きでいなきゃ、だから「可愛い」と感じるのかなと思います。結局ユリ子は全て嘘で作り上げられていたけれど、ユリ子の本質にはそんな少女性がたくさん詰まっていたからこそみんなから愛されていたのかなと思いました。自分語りが多くなってしまいましたが、とにかくこの作品は傑作だと思います。

  • 探偵小説家や幻想作家として活躍した夢野久作。
    彼の作風はとても個性的で、特に代表作として知られる「ドグラ・マグラ」は読むと精神に支障をきたすとまで言われている。
    しかしこの「少女地獄」は、夢野久作らしい世界観は残されているものの、かなり読みやすい作品だ。
    この作品は3つの短編で構成されており、1人目は虚言壁を持つ少女、2人目は連続殺人犯を愛してしまった女性、3人目は校長の悪事を暴いた少女と、それぞれ3人の女性を中心に物語が展開していく。
    特に印象に残ったのは1人目の、虚言壁を持つ少女である「姫草ユリ子」だ。彼女は精神に異常をきたしており、月の初めの2日、3日なると発作のように嘘を吐き出す。この作品は書簡体形式が使われているため、冒頭はこの姫草ユリ子の遺書で始まるのだが、その遺書に記載されていた日付は12月3日だったのだ。果たして姫草ユリ子は本当に死を選んだのかどうか、それは誰にも分からない。
    この作品からはそういった、理解できないような狂気のほかに、女性の強さ、哀しみ、愛など様々な感情が読み取れるような気がする。
    題名のインパクトも相まってかなり印象に残るような作品だった。

  • 若い女性の狂気的不幸が三編。淡々と綴られる文章には恐怖に震撼するけれど、ほんの僅かな共感が残るの何故だろう。

  • 「何んでも無い」
    医師・臼杵の前に可憐な19歳の少女、優秀な看護婦の姫草ユリ子が現れた。しかし、彼女には虚言癖があり、それが周囲の者にばれると姿を消した…。

    「殺人リレー」
    バスガイドになった智恵子に、幼なじみのツヤ子から手紙が届く。それは「私の夫、バス運転士・新高は結婚詐欺師で殺人者だ」というものであり、その1週間後、ツヤ子は不審な事故死を遂げる。その後、智恵子の職場に新高が配属される。智恵子はツヤ子の仇を討とうとし結婚するのだが…。

    「火星の女」
    生徒が焼身自殺した県立女学校で、その後立て続けに校長の失踪や発狂、女教師の自殺や書記の大金拐帯などが起こる。その記録簿。

    どれも女にまつわる悲しい話。「嘘」「固執」「恨み」「復習」、…まさに「少女地獄」。実は青空文庫でDLしたものを風呂で読んでいたのですが、のぼせるまで手が離せなかったです。真に迫る何かがあります。

  • 女性のある種女性故の愚かさと脆さと悲しさと、そして苛烈なまでの強かさを描いた短編三作。
    俯瞰して見れば「虚言癖の女が自殺した」「バスの女車掌がイケメン殺人鬼に籠絡された」「女学校で次々起こる怪事件」と言ったシンプルな事実にメスを入れることで溢れ出てくる真実のハラワタはまさに阿鼻叫喚の地獄模様。嗚呼女は斯くも愚かで男もまた愚かで醜悪であるのか。

    ところでタイトルは少女とあるけれど、少女と呼んでいい歳なのは火星の女くらいよね。

  • 少女(女性)を主題とした短編3つ。嘘つき女が破滅する話と、『火星の女』は山岸凉子の漫画に出てきそうな話だった。特に後者。山の中を走りながら「キエェェェェ」とか叫んでそう。

  • ドグラ・マグラのイメージが強い作者だったので「また訳分かんないのがくるぞ」と構えてましたが、以外にあっさりフツーのこと書いてたので驚き。なーんだ!フツーの小説も書けるじゃーん!的な。
    嘘をついて虚構に浸るのも、身を滅ぼす恋愛に投じてしまうのも、女なら共感しやすい題材なのでは?と思いました。

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著者プロフィール

1889年福岡県に生まれ。1926年、雑誌『新青年』の懸賞小説に入選。九州を根拠に作品を発表する。「押絵の奇跡」が江戸川乱歩に激賞される。代表作「ドグラ・マグラ」「溢死体」「少女地獄」

「2018年 『あの極限の文学作品を美麗漫画で読む。―谷崎潤一郎『刺青』、夢野久作『溢死体』、太宰治『人間失格』』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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