あの時分 [青空文庫]

著者 :
  • 青空文庫
  • 新字新仮名
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  •  国木田独歩の作品は、誰かから聞いた話というパターンが多いのですが、本作品は作者自身を思わせる“窪田”さんの体験談という形式で書かれています。
     大学時代を回顧して、主に樋口と木村という同宿者について書かれています。
     樋口については、佐藤春夫による珠玉の名品『オカアサン』と同じく、オウムの台詞から始まる話。
    『オカアサン』では書き手が推理の過程を分かりやすく説明してくれていましたが、本作品ではほのめかしているだけで読み手が推理して補完しなくてはならない。
     世間知らずの私でもこれくらいは何とか想像できそう。小中学生時代に読んでも意味が分からなかったのではないでしょうか。

     
     冒頭で
    >「あの時分」の話になると、われ知らず、青春の血潮が今ひとたびそのほおにのぼり、目もかがやき、声までがつやをもち、やさしや、涙さえ催されます。/

    と勇ましいようなこと書かれていますが、やはり本作品も国木田独歩の作品らしい、物悲しい余韻を残す作品です。
     本作品で回顧される樋口と木村は、大学を卒業することなく消えていきました。
     また、語り手の窪田と仲よしだった下宿先の息子の四郎さんもその後まもなくして脊髄病にかかって亡くなったといいます。
    「縁が薄い」「影が薄い」という言葉が使われていますが、当時、弱肉強食の生存競争の世界で世に出ることなく消え去った人も多くいたのでしょうね。

     
     本作品には他にも窪田の同宿者・政治科の鷹見と法科の上田が登場します。この実学系の二人は立派に立身出世して学生時代のことを上から目線で語り合うご身分になっているようです。
     樋口や木村はどの学科か不明のようですが、実学系の二人とは肌合いが違って、文科系の雰囲気があります。
    「樋口も木村もどこか似ている性質があるようにも思われますが」
    「この二人はとにかくある類似した色を持っていることは確かです」
    と書かれています。
     そして、書き手の窪田さんの専門についても明らかにはされていないのですが、どうやら窪田さんは政法の二人よりも樋口や木村の方に近いような書きぶりです。
    (作者の国木田独歩は東京専門学校(現・早稲田大学)英語普通科中退のようです。)
     それはともかく窪田さんもまた政法出身者と肩を並べて学生時代を語り合える身分になったのだからすごいことですね。
     しかしこの作品は、志半ばで消えていった人々にも目配りする視点があります。そこが独歩作品の味わいです。
       http://d.hatena.ne.jp/nazegaku/20170706/p1

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