倫敦塔 [青空文庫]

著者 :
  • 青空文庫
  • 新字新仮名
3.40
  • (1)
  • (1)
  • (2)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 17
感想 : 2
  • 青空文庫 ・電子書籍

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 以前読んだ記憶があるものの、記憶がはっきりしないのと、先日、漱石先生と西洋美術(特にイギリス美術)を扱ったアート番組があったので再読。

    ロンドン塔はもともと、王室にきわめて近い罪人を幽閉し、処刑するための施設である。今ならクリーンな歴史観光施設として人気のスポットだ(と思う)が、漱石先生が英国に留学されていた時代では、そういった「監獄」の趣きは今よりも格段に濃いものだっただろうと思う。

    逆賊門を通り抜け、ボーシャン塔をのぼっていくと、ここで命を絶たれた人々の嘆きや憤りといった、見えるはずのないものが漱石先生の目に見えてくる。実際、見えてきてもおかしくないと思う。親から離され、幽閉された幼い兄弟。壁に記された、自らの一族の歴史を誇らかに読みあげ、かたわらの子供に聞かせる貴婦人。処刑の後、刃の欠けた斧を歌いながら研ぎなおす首切り役人…どれも史実や著名な文学作品・絵画のパーツでありながら、漱石先生流に巧みにつなぎあわされている。たまさかロンドン塔へのぼってみた漱石先生のエッセイという形をとっているが、ロンドン塔の歴史に材をとったゴシックホラーの趣きがあって、日の当たらない石の壁に手を置いたときのような、薄ら寒い気分にとらわれる。

    エッセイの終わりに、「これとあれとそれをつないでみましたが、あんまりうまくいきませんでした」的な先生の釈明が書かれており、そこには『薤路行』と同じく、先生の照れを感じる。いやいや先生、何をおっしゃいますやら。まったくもって見事なお手並みでございます。

全2件中 1 - 2件を表示

著者プロフィール

1867(慶応3)年、江戸牛込馬場下(現在の新宿区喜久井町)にて誕生。帝国大学英文科卒。松山中学、五高等で英語を教え、英国に留学。帰国後、一高、東大で教鞭をとる。1905(明治38)年、『吾輩は猫である』を発表。翌年、『坊っちゃん』『草枕』など次々と話題作を発表。1907年、新聞社に入社して創作に専念。『三四郎』『それから』『行人』『こころ』等、日本文学史に輝く数々の傑作を著した。最後の大作『明暗』執筆中に胃潰瘍が悪化し永眠。享年50。

「2021年 『夏目漱石⑤-2 それから』 で使われていた紹介文から引用しています。」

夏目漱石の作品

ツイートする
×