感想・レビュー・書評
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「或る女」を読み、有島武郎の末路を知った後の読書。著者の言う惜しみない「愛」と「個性」は、わかったような、わからないような、中途半端な気分だ。しかし自分にそれを実践、肯定できるものではないことは確かである。前半は、本能に従って奪う愛の尊さをうたっていると思うが、それはすなわち著者の晩年を肯定する内容で、社会的には排除されるものだろう。まるで自分の最期を予言したかのような内容だ。エゴを理論で包んで肯定するような印象を受けた。
後半で「無政府主義」が突如として出てきて、社会主義と対比させる論は、読むものを混乱させる。政府や国家という政治の範疇と、著者の主張する生き方の問題とが、並んで論ぜられることが理解できなかった。もちろん、愛情を持った一つの家族が国家の中で成長していくことは理想である。しかし理想と現実が異なるのは今の世界でも同じ。
読後しばらくして思うのは、著者のシンプルな感覚が、幾重にも張り巡らされた理論で述べられている、ということであった。詳細をみるコメント0件をすべて表示
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