恋愛曲線 [青空文庫]

著者 :
  • 青空文庫
  • 新字新仮名
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感想 : 6
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  • 全体のあらすじ
    失恋をした医学者である男は、愛した女性である雪江さんと近々結婚するという金持ちの男に、記念品として「恋愛曲線」なるものを送ることにした。電気心働計という心臓の鼓動を曲線で表す機械を用いて、感情による鼓動の違いを調べた。はじめは兎の心臓を用いて研究を進めていったが、ある日、結核で亡くなった女性の心臓を運よく手に入れることができた。その女性は生前、愛した男に捨てられ失意のうちにこの世を去ったのであった。そこで男は、その女性の心臓に自分の血液を通わせれば、「失恋曲線」ができるのではないかと考えた。早速実践し「失恋曲線」を作ることには成功したが、男は何としても「恋愛曲線」が作りたいと考え続けた。そして思いついた方法は、「失恋」を応用することであった。つまり、数学でマイナス×マイナスがプラスであるように、失恋の極致に達した者同士であれば「恋愛曲線」を完成させることができると考えたのだ。雪江さんと金持ちの男の結婚によって失恋をした女性が一人いた。医学者に二人の結婚を知らせた人物である。彼女は、喜んで死に就くから、是非、心臓を使ってくれという。医学者の男は、彼女が生きた心臓を提供してくれたことに対する感謝として、自分の血液をすべて使って曲線を完成させることにした。自分の血液を女性の心臓に通わせながら、金持ちの男に手紙を書く。自身の血液が少なくなっていき、愛なき金力結婚を厭い、医学者の男のもとに駆け込んできた彼女の心臓は、停止しようとている。

    作品展開の説明
    失恋した医学者である男が、近々結婚する金持ちの男宛に送った手紙という形式で書かれている。恋愛曲線とは何か、どのように作られるのか、そして、研究の日々について記されている。タイトル的には純粋な恋愛小説かと思えるが、かなり癖のある小説であった。文章量は多くなく一気に読みやすい点が良かった。また、最後の落ちのどんでん返しが素晴らしく、非常に面白い小説だと思った。

  • 雪江が失恋した?
    結婚相手が女にだらしないということを知ったという意味かな?
    主人公が雪江にそう伝えて、失恋させたのかな?

  • 人間には様々な感情が存在する。感情というものは時に人を勇気づけ、時に人を傷つけるのである。
    その感情の中でも好きなどの恋愛に関わる感情は人の行動に強く影響することが多い。
    人に好意を持てばその人のために何かしようと行動を起こしたり、幸福感に満ち溢れ四六時中その相手のことを考えてしまい、世界の中心がその人で回っているような考えになってしまう例もある。
    しかしその行為の感情も行き過ぎては猟奇的な行動へとつながっていき、危険な事件を引き起こしかねない。
    反対に恋愛が成就せずに失恋をしてしまえばより、複雑なものになっていく。
    好意から嫉妬へ、言葉では簡単に表記できるが当の心の変化は、まるでこの世の終わりのように絶望してしまい大きく精神を傷つけたり、狂わせたりしてしまうであろう。
    長い時間解消せずにいるとさらにその感情が強さを増し、自分自身の身を亡ぼしたり、自分を正当化させ、他の物を意図せずに傷つけるという難儀なものである。
    恋というものは甘美なもので時に毒と化す。しかし感情というものがある以上それとは切っても切り離せない。
    どのような経緯であれ、気持ちを強く持てば何かを犠牲にしてしまうなら深く入り込まず、失っても傷つかない程度で感情と付き合っていくのも一つの手ではないかと考える。

  • 文体からみて、どうも気分が良い作品ではないと思い、失恋曲線の話が出てから、手紙に相手である「君」と主人公の失恋相手である雪江の心臓をくりぬくのだろうと思っていたが、予想を良い意味で裏切られたと思う。心臓を取り出しても心臓は動き続けると興奮しながら説明し、兎や犬や羊の心臓を実験で使うといった描写には主人公の狂気を感じた。後味はとても悪いが、読者をひきつける力がある。しかし、割と典型的な展開なので★4。

  • 私はこの作品を読みながら、鳥肌が止まらなかった。友達の結婚への祝福の手紙から始まり祝福の言葉で終わるハッピーエンドの小説と勝手に想像していたが、読み手を恐怖に引きずり落とすもはやホラー作品であった。あまりにもグロテスクであった。自分の失恋の気持ちが、こうも歪んだ気持ちになってしまうのは現代にも無くはないことである。少なくとも私はこんな男のようにはならないと断言出来る。たかが失恋しただけで大袈裟すぎると思うが、失恋というものを経験したことがある人は気持ちがわかるのだろうか…

  • 失恋。この経験を誰もがしうるかもしれない。本書では、失恋した科学者の手紙を読み上げる形式の物語で、恋愛曲線という本の題名からは誰も想像できない内容である。

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著者プロフィール

推理小説作家。東京大学医学部卒、医学博士。1890-1929.医学的・心理学的知見を駆使した作風で屹立。代表作に、「痴人の復讐」「恋愛曲線」「闘争」など。

「2017年 『疑問の黒枠』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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