きりぎりす [青空文庫]

  • 青空文庫 (2006年1月14日発売)
  • 新字新仮名
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青空文庫 ・電子書籍

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  • この物語の主人公は24歳の女性で、太宰治はこの女性目線で物語を書いている。
     女性は父の会社である男性の画を見て衝撃を受け、「どうしても、あなたのとこへ、お嫁に行かなければ、」と思い、親の反対を押し切ってこの男性と結婚した。男性は売れない画家で、結婚してからは貧乏な生活を送っていたが、貧乏が嬉しいと思うほど楽しい毎日だった。その生活の中で女性は、自分の夫はこれからも有名にはならず、お金持ちにもならないと思っていた。しかし、その予想とは裏腹に男性の画は高い評価を受け、画家として飛躍を遂げる。個展を開くと出品した画が全部売り切れ、有名な大家から手紙が届くようになった。
    画家として成功しお金持ちになると、男性はどんどん人が変わっていく。アパートの部屋を恥ずかしがるようになり、身なりを気にするようになり、嫁の財布の中をしらべるくらいにまでお金を気にするようになった。誰にも頭を下げず、自分の思うように生きていた夫はもういなくなってしまった。しまいには、女性は夫を憎むようになり、「ああ、あなたは早く躓いたら、いいのだ。」「きっと、悪い事が起る。起ればいい。」とさえ思っていた。
    そして、結婚して5年が経ったときに別れを告げた。

    この本の登場人物について、意見が分かれるだろうと感じた。女性を情熱的・魅力的だと捉えるのか、自己中心的だと捉えるのか。男性については、女性目線で書かれているため批判的に書かれているが、男性は悪い方にだけ変わったわけではない。男性が読むのと女性が読むのでは、登場人物について意見が分かれるだろう。
    私はこの本を一行目のインパクトで決めた。だから他の人にも読んでみてほしい。

  • 小説批評講座の課題で読んだ。芸術家の妻の独白。当時の社会的に成功した芸術家たちを皮肉っている。太宰自身も含まれているかもしれない。とにかく太宰らしくシニカルな作品。

  • この作品の著者である太宰治といえば薬物依存や繰り返す自殺未遂など荒れた生活を想像するかもしれないが、『きりぎりす』を発表した31歳の頃は結婚したばかりということもあり、比較的穏やかな生活を送っていた。同じ年に『走れメロス』『皮膚と心』なども発表している。

    本作は、「おわかれ致します。あなたは、嘘ばかりついていました。」から始まる女性目線での別れの告白文。「私」は家族に反対されながらも売れない画家と結婚する。その画家は自分の好きな画ばかりを描いていたため「私」と画家の夫婦は大変な貧乏であったが、「私」は貧乏な暮らしを心から楽しんでいた。しかし、だんだんと画が売れはじめ、幸せな貧乏生活は途切れた。「私」は画家は出世するにつれて軽薄になっていくように感じて、とうとう画家との別れを決意するのだった。

    その人にとっての幸せとは何かを考えさせられる作品のように感じる。「私」にとっての幸せは「夫の画に囲まれながら貧しくとも工夫しながら周りに感謝しながら生きていくこと」で、画家にとっての幸せは「自分の描いた画がより多くの人に認められること」であると考える。二人の幸せがかみ合わなくなったためこの別れの文章が生まれたのではないだろうか。

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著者プロフィール

1909年〈明治42年〉6月19日-1948年〈昭和23年〉6月13日)は、日本の小説家。本名は津島 修治。1930年東京大学仏文科に入学、中退。
自殺未遂や薬物中毒を繰り返しながらも、戦前から戦後にかけて作品を次々に発表した。主な作品に「走れメロス」「お伽草子」「人間失格」がある。没落した華族の女性を主人公にした「斜陽」はベストセラーとなる。典型的な自己破滅型の私小説作家であった。1948年6月13日に愛人であった山崎富栄と玉川上水で入水自殺。

「2022年 『太宰治大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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