模範的軍人としてキャリアを重ねた後,日清戦争において,頽廃さを漂わせる中国兵を相手に果敢な突撃をして栄誉を手にした男が,その栄誉がもたらした華々しい生活を味わったがゆえに,元の堅実な道を外れて放蕩に走るようになる.自身の武勇伝を題材に,しかし実際よりも派手に脚色された演劇で本人役として登場し,喝采を浴びるも,彼の人生は凋落し続け,終いには手にしたものの一切を失い浮浪者となって,自身がかつて倒した中国兵と同様の姿を曝しながら死を迎える.
欲のままに堕落した生を送ろうとする本来的な人間の性を「現実」とし,これと対比する形で,特に近代化に伴って日本にもたらされた,統率された軍隊とそれに付随する数多のモラルや文化による繁栄を「夢」としていると読める.禁欲的な勤勉さ・堅実さを守ろうとしていても,結局生来的な欲や執着に打ち克つことは困難であって,ゆくゆくは元の通りの堕落へと戻っていく,といったテーマか.