浮雲 [青空文庫]

著者 :
  • 青空文庫
  • 新字新仮名
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感想 : 3
  • 青空文庫 ・電子書籍

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  • 『浮雲』というと、日本初の言文一致体で書かれた作品ということで有名である。しばしばカタカナで書かれている文章が現代っぽさを感じさせ、登場人物の性格や特徴をよく引き出しているようにもみえる。リズムを刻むように文章が書かれているために、恋を題材とした話は少し重さを感じそうなところを、上手くユーモアな感じに仕上げている。

    この作品を読む前は「不器用な男が好きな人に夢中になりすぎてクビになり、そのままウダウダと過ごす」というようなことを聞いたことがあり、失恋を描いた暗い作品だと思い込んでいた。しかし読んでみるとそんなことはなく、とてもユーモアな描写が多くて面白い作品となっている。

    主人公である文三があまりに不器用で読み手としては始終モヤモヤする感じが残るが、その不器用さがとてもリアルに描写されていて、現代にもこのような人は沢山いるのだと思う。フワフワとした主人公の行動からまさしく『浮雲』というタイトルに納得を覚えた。現代でいう「無職の草食系男子」といったところだろうか。

    そしてその文三の友人である本田は文三とは正反対でとても世渡り上手である。この対照的な二人がお勢という一人の女性を取り合うわけだが、お勢に思いを寄せながらもなかなか告白をしない文三にじれったさを感じる本田と読者。無論文三よりも器用な本田は上手いようにお勢と親密になってしまうのだ。その後お勢に夢中になるあまり役所を免職になった文三は、想いを寄せる気持ちにすっかり自信をなくし、あらぬことばかり妄想にふけり、何の進展もなくそのまま終わっているのだが、その妄想を含めた心の葛藤は現代人が見ても十分に興味を惹かれるものがあり面白く読めるようになっている。読み進めるほどに読みやすくなっていく本である。先ほども言ったように文章にリズムを感じる感覚があり、江戸から明治にかけての時代背景であるにもかかわらず、現代にも通じる内容である。

    主人公である文三の振る舞いに少し苛立ちや違和感を覚えながらも、思想の深さには作者の思いや苦悩が詰まっているのが分かる。解説には未完だと書いてあった。確かに、もう少し続きを読みたくなってしまう。

    明治時代の人間が現代の人間と全く同じ感性を持って生きていたということがわかった。その同じ人間が、その後戦争に直面したりする。浮雲は色々と考えさせられる名作だ。文三と勢のその後が大変気になるところではあるが、トンボ切れに終わってしまうのもこの作品の魅力だろう。このように不明のまま終わらせる作品を初めて読んだが、なぜか引き込まれる感覚を味わえて、これはこれでよいのだと感じさせられた。

  • この作品は未完であることから、どのような終わり方をしているのかなと疑問に思っていたが、やはり続きが気になる。未完であることは残念に思うが、公表されている部分だけでも主人公の性格やストーリーの展開にワクワクさせられ、読んでいて「浮雲」の世界に入り込んでいた。それから二葉亭四迷は、ツルゲーネフの短編小説の翻訳もしていたことは驚きである。当時の日本でロシア文学を流行らせたのは二葉亭四迷なのだろう。ツルゲーネフの「初恋」という作品を読んだことがあるため、その人の翻訳をしたと知って興味が沸いた。ロシア語は習ったことはないが、日本語や英語より遙かに難しそうだ。言文一致体を確立させた上にロシア文学作品の翻訳までしていて本当にすごい方だと思った。

    「浮雲」の特徴は、言文一致体だろう。話し言葉で書くことで気軽に多くの人に読んでもらえて読者層も広かっただろう。また、新聞に小説を書いたうちの1人で、当時の人々は新聞が届くのを待つ時間も楽しみの1つだっただろう。現代で二葉亭四迷が生きていたらさらに現代的な文体を模索し続けて、幅広い世代に受ける作品を書いていただろう。

    主人公の文三は悪く言えば臆病で、自信のない印象を与える青年だが、良く言えば相手のことを思っているからこそ、相手を傷つけまいと慎重に行動していて責任感のある人だと捉えた。読んでいてその性格にモヤモヤさせられた。しかし、もし自分が文三と同じ境遇に立たされたらきっと堂々と思いを寄せる相手とは話せないのだろうなと思う。日本人は外国人と違って自ら積極的に他人と話したり、人に自分の意見や思いを伝えることが苦手な人が多い。日本人独特のコミュニケーションの苦手な性格が表現されていると思った。一方、文三とは対照的な文三の元同僚本田は容量がよくて自分に自信があるが、他人のことより自分が良ければ良いという印象をもった。想像だが、本田は女性の扱いが慣れているのではないかと思う。そして、お勢の母親お政に良い印象を与えるのも上手い。文三は日本人らしいシャイな性格で、本田はアメリカ人のような堂々とした性格だ。また、お勢は何を考えているかよくわからないミステリアスな女性で美しく教養があり、今でいう、小悪魔的な存在だと思う。文三や本田を振り回すお勢の性格の設定にも、三角関係をより面白くさせ読者を惹きつけているのだろう。そして初めは文三を娘の婿にと思っていたお政だったが、文三が無職になったことを知ると、出世街道を行く本田を娘の婿にしたらどうかとお勢に提案する様子も、保守的で、合理的な考えが垣間見えた。娘には幸せに、苦労のない相手をと思うのは母親としては当然だが、急に文三に冷たく接するのは失礼でマナーが悪いと思った。作品の見所は文三と本田の対照的な性格と、お勢の気まぐれな言動にあると思う。

  • これを名作と分類した文学者はなかなか只者ではないのではないか。
    この文三のどうしようもないっぷりは、今ならいろんな家のニートを訪ね歩けば棒に当たるレベルで見つかりそうな。ウジウジしながらも溜め込んで何も言えないし、すぐ泣くし、すぐ怒るし。
    テストで、このときの主人公の気持ちを述べよって言われれば、おまえ竹原慎二にでも相談に行ってボコボコにされて来いって言っておしまいだし。それで先生に0点つけられたらグレるし。
    まぁでも古典文学の登場人物っぽいっちゃあっぽい。
    とか言ってもしょうがないので、このモヤモヤを明日へのエネルギーにして生きていきたい。

  • 言文一致体ということですが、妙に芸人口調、落語口調で面白かったです。

    お勢さんは女学校にいったわけではないそうですが。この時期の女学校にはずいぶんラディカルな教育をしたところがあるらしく。かわいい美人がこんな口調で物を言ってるところを想像すると微笑ましいですね。

    本田さんがお勢さんに迫るところは本気で戯作調で、ほんとにこんなこといいながら女に迫る人っているのかな?と思いました。

    お勢さんのお母さん、本作ではやや脇役ではあるけれども彼女の気持ちもわからないではないです。しかし、彼女が本気になれば、お勢さんのためにいくらでももっと好条件のお見合いを引っ張ってこれそうなのに手をこまねいているのはちょっとおかしいな、ご都合主義だなと思いました。

    文三さんは苦労人のはずなのに、妙なプライドがあってこれにも少々違和感がありました。
    未完なのは残念です。

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