ドグラ・マグラ [青空文庫]

  • 青空文庫 (2007年12月24日発売)
  • 新字新仮名
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青空文庫 ・電子書籍

感想・レビュー・書評

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  • 「私」が精神病棟で目を覚ますところから物語が始まります。序盤から奇怪な造語が多数現れるだけでなく、文章構成が大変複雑で、の詳しい要約はできませんでした。
    日本三大奇書といわれているだけあって、とても不思議で奇妙な作品でした。精神病患者を題材としており、終始「私」が幻覚や幻聴に苦しめられるような描写があります。重度の精神病患者で記憶喪失の「私」の一人称視点で物語が展開しているため、「私」が感じ取る暗すぎる空気や幻聴、幻覚がはっきりと生々しく伝わってくるため読み進めているこちら側までおかしくなってしまいそうになりました。自分は昔精神病を患ったことがあるため少し耐性があったのかある程度正常な状態で読み進めることができたが、そういった異常とも言えるような状態を知らない人は読んでいくうちに精神的に苦しくなってしまうかもしれないので読むことを強く勧めることはしません。ですが、ここからは私の主観的な感想になってしまいますが、造語や常に続く重い雰囲気に圧倒されながらも様々な事件を通して「私」の心の変化を見ることや、事件のことや「私」の精神に起こることを深く理解するために読み返し考察する行為はとても面白く感じました。

  • 校正を担当した一人です。改めて読み返してみると、よくできた作品だと思います。フランス語訳されているそうですが、「チャカポコ、チャカポコ」のところはどうしているのだろう?

  • 初出:1935(昭和10)年

    読んだら精神に異常を来たす?日本小説の『三大奇書』とは?

    人間の細胞は30兆個(現代では一般的には「60兆個」、範囲としては60〜100兆個とされている)、人類20億人とされた時代。←これは事実。
    精神障害者(疾患者を含む)に対する虐待の古今東西の歴史。←これも事実。

    主観的時間こそ絶対、記憶は個々の細胞に宿る、精神遺伝説、夢の原理、・・・。
    「奇書」と銘打っているが、文章そのものは読みやすく、筋が通っている。
    そして、描写が詳細で具体的という、「洗脳文章術」に出てきた手法で、説得力のある物語になっている。
    昭和10年の時代背景から、差別的表現が満載されている。そして「血統」が子孫を精神的に支配して行くという考え方。DNAが遺伝子であり、物理的な遺伝に影響するということが証明されていなかった時代、仏教の輪廻転生を全面に押し出している。「犯罪者の血統は遺伝する」という観点からすれば、「黒死館殺人事件」と共通するものがある。

    さて、ネタバレを以下に。

    ・文章構造
    ブーン→「ドグラ・マグラ」(リカーシブ)→ブーン(リピート)
    M博士の資料開始:19%〜終了:66% (全体の47%を占める)

    ・主人公の名
    これが初めて登場するのは、ページ数でいって全体の42%のところである。もっとも、主人公が実際にその名なのかはまだ本人は疑っている。

    ・二転三転する結末
    最終的には、結局自分自身の過去の生活の記憶が描かれなかったわけだから、最後の「胎児の夢」が結論である。事実、「巻頭歌」にも出てくる。そして先祖の行いや記憶がインプットされていく経過であった。これが「心理遺伝」であり、出生後潜在意識に潜り込んでしまう、という理論(ドグマ)。

    ・文章に出てくる「エロ・グロ・ナンセンス」・・・昭和10年にすでにこの言い回しがあったとは。
    グロ・ナンセンスは出てくるのだが、一通り読んでもエロに該当するものが見当たらない。しかし、実はこの物語の冒頭から始まる描写が「エロ」(アナロジー)であったのだ。童貞であることからくる赤面、牛乳、妊娠中の性交と母体のエクスタシーからくる突然の幸福感。赤く太い腕、W博士の長身と小さな籐椅子・・・。

    ・「ブーン」について
    最初のページに「ボンボン時計」とハッキリ書いてある。普通、時刻を知らせるのなら「ボーン、ボーン」だろう。だからこれは「水中で聞こえる音」を意味しているのだろう。そして、この「夢」が1時間の間に見られたものであることを示す。「前よりもこころもち長いような」ブーンとは、主観的な時間経過が現実の(体外の)時間経過に近づいていることを表わしている。

    ・何番目の「夢」か
    主人公が見ている「胎児の夢」は、前の世代かその前の世代の祖先が経験した記憶である。だから、M博士とのやりとりと出来事、その後また何年もたった後の「遺稿」を確認することになる。Kの血統はGに始まり(ラスト)、代々Kとして引き継がれるが、K.Iの父親はM博士でもあるので、その経験は特に詳しく「心理遺伝」し、物語の大部分を占める。ありありとした「フルカラー3D映像」もそれによっている。
    しかし、主人公本人はまだ生まれていないのだから、名前はまだない。だから、自分についての記憶も名前も空白なのである。


    産業革命による「唯物資本主義」の時代を否定して、唯心論を説く著者の父親は九州の大物右翼である。「国体を憂う」という文章も出てくる。戦前の昭和時代は心霊現象の研究が流行り、まじめに議論されていた時期がある。

  • 幻惑、幻惑。

    読 み 終 わ っ た ー !
    やっとのことで読み終わった。半年近くかかったなー。
    「読むとキチガイになる」という噂が気になって調子のいい時しか読まないようにしてたのと、祭文のカタカナ文章や正木教授のもったいつけた話しぶりが読みづらいのとで、なかなか前に進めなかった。
    はー、疲れた!

    しかしほんとに奇妙な話だったなあ。

    はじまりはこうだ。
    自分の名前も、過去もなにもわからない青年が鐘の音とともに独房で目を覚ます。
    そこはどうやら精神病院で、青年の婚約者だと名乗る少女の逼迫した声が壁伝いに聞こえてくる。
    一体自分はどういう人間で、なぜこんな所に入っているのだろう?


    ※以下ネタバレ注意





    その謎を追っていこうとページをめくると、『ドグラ・マグラ』という原稿が作中に現れる。
    そしてこの本の仕掛けについて、親切に教えてくれる。
    奇妙キテレツな祭文、談話、論文、遺言書、事件記録、昔話などが挿入されて、一体何が言いたいやらわけもわからぬまま読み進めるが、青年の過去と関係しているらしい怪事件の真相、そして青年の正体を知る段になると、その全てが本筋そのものになっている…そうだ。
    しかも、この作品の終わりに鳴る鐘の音は、最初のものと同一であり得るという。
    私が半年かけてこつこつ読んできたこの本は、一瞬の出来事だったかもしれないのだ。
    それならまだいいが、一瞬の出来事でさえもなかったかもしれない。
    ただの妄想、夢。
    そういう「惑わし」がたくさん詰まった作品である。


    怪事件の真相に至ってもそうだ。
    「犯人は俺だよ…」と正木が自白するが、これは「自分がやったから」ではなく「自分にしかできないから」らしい。
    自分が犯人なら、やったことを淡々と語ればいいのだ。だが彼はそうせずに、WとMの物語を聞かせて「黒幕は誰か?」の判断をこちらに委ねる。どうもはっきりしない。
    そうするうち物語はWとMの非道な行いを紡ぎ出し、ついに青年が声を上げる。

    だが待てよ、と。
    色々と前もって準備ができる正木・若林の言葉や書類を、一体どれだけ信じられるのか。
    もしかして全部よくできた嘘で、かつがれてるんじゃないか?
    そうやって、青年が呉一郎だと思い込ませるつもりじゃないのか?
    こちとら一郎がそこに見えるんだぞ。それを、離魂病だのなんだのと。

    だいたい学術のためとはいえ、「子どもを孕ませてその子が将来狂人となり殺人を犯すよう準備を整える」なんて、そこまでするか?
    呆れた話だ、もしこれが本当なら。学者先生たちまで巻物に取り憑かれてるじゃないか。
    「もし本当なら」、ね。

    ここにくるまで散々脳をかき回された分、こういう疑念がこびりついて離れない。
    青年もこの「幻惑」を映すかのように「アッハッハッハ」と突然笑い出し、犯人なんていなかったんじゃないか、偶然に起きたバラバラの出来事を無理やりつなげてこんがらがってるだけじゃないのかと言い始める。

    そんな疑念にひとまずの終止符を打つのが、巻物の最後の文字だ。
    これで父親が誰か、黒幕が誰かが青年の頭にピン!ときて、ショックから彼は外に飛び出してしまう。だがこんな時でも私の疑念は晴れない。
    本当に見たのだろうか。
    本当にそこに文字があったのか?

    外気に触れて戻ると、さっき見ていた資料にほこりがかぶるほど時間が経過している。
    そのほこりをかぶった資料の中に、さっきまで話をしていた正木の自殺の報。
    解放場の流血沙汰の記事。

    青年は思い出す。謎に対する答えを。
    離魂病、夢遊状態、胎児の夢、被害者の最後の表情…。
    ようやく探偵物語は終焉を迎え…

    そして鐘が鳴り、私たちは夢から覚める/眠りに落ちる。
    また最初に帰るのだ。

    『胎児の夢』でこんなことが書かれていたのは、この時のためだろう。

    - - - -
    一秒のうちに一億年が含まれていると同時に、宇宙の寿命の長さといえども一秒のうちに感ずる事が出来る訳である。

    五十年や、百年の間の出来事を一瞬、一秒の間に描き出すのは何の造作もない事である。

    盧生が夢の五十年。実は粟飯一炊の間……とあるのは事実、何の不思議もない事である。
    - - - -


    さて、ここまで青年の身に起きた出来事は、現実に起きた事なのだろうか。
    「正木との会話」が十月二十日の繰り返しだと考えたように、いつかの出来事を繰り返し夢に見ているというのか。
    それとも全て、夢の創作に過ぎないのか。
    一秒にも満たない、刹那の夢の。

    狐につままれたような心持ちで、今はいる。


    読書メモ:
    http://haiiro-canvas.blogspot.jp/2013/05/blog-post_14.html

  • 「……これは何ですか……この『ドグラ・マグラ』というのは……」
    「それは、精神病者の心理状態の不可思議さを表現した珍奇な、面白い製作の一つです。この内容と申しますのは、一種の超常識的な科学物語とでも申しましょうか」
    「……超常識的な科学物語……」
    「実に奇怪極まる文章で、科学趣味、猟奇趣味、エロチシズム、探偵趣味、ノンセンス味、神秘趣味なぞというものが隅々まで重なり合っているという極めて眩惑的な構想で、気味の悪い妖気が全篇に横溢しております」
    「……どういう意味なんですか……このドグラ・マグラという言葉のホントウの意味は……日本語なのですか、それとも……」
    「……このドグラ・マグラという言葉は……」

     …………ブウウ――――――ンンン――――――ンンンン………………。
     …………ブウウ――――――ンンン――――――ンンンン………………。

     どこか近くで、ボンボン時計が鳴っている――。

    ---------------------------------------------------------

     コンクリートで囲まれた部屋で目を覚ました“私”。だが“私”には一切の記憶がなかった。記憶を取り戻すために、訪れた法医学教授により外に出された“私”だったが――。

     記憶を取り戻すため、教授から様々な情報を与えられ、手渡された書類に目を通していく内に、戸惑い、面食らい、虚と実、現と幻が綯い交ぜになり、やがて冒頭へと回帰していく。円環するウロボロスの理で構築された、無限地獄のような、循環する物語。
     その緻密で理知的ながらも常軌を逸した内容に、日本探偵小説史上における「三大奇書」に選ばれた推理小説。これはぜひ“私”に感情移入して、“私”に自分を重ね合わせて読んでほしい。

  • ドグラ・マグラという作品は、日本探偵小説三大奇書の一つであると聞いてたことがあって、読んでみたいなと思っていたのですが、想像以上に長かったです。驚きました。けど、ブゥーーンとかの特徴的な擬音が沢山あるので、読みづらいとは、思いませんでした。


    記憶喪失の主人公が精神科病棟で目覚め、自身の過去や事件の真相を追う物語なので、絶えず自己とは?と問いかけられるように感じるので、少し苦しい気持ちになりました。巻頭歌の『胎児よ 胎児よ なぜ躍る 母親の心がわかって おそろしいのか』というのは、生まれる前から感じられる子供の恐怖を表しているのではないかと思いました。生まれる前からお前の恐怖は始まっているといわれているようで、恐ろしかったです。

  • 精神的なものを扱うお話なので、心理学専攻している方ならわかりやすいかと。

  • やっと読み終えた。
    めちゃくちゃ読みづらい小説だった。特にチャカポコとか論文とかの資料読むところが辛い。
    全体的に文体がクドくて何度も同じようなことを言ってる。本当にしつこくてもうわかったと何度思ったことか。普通の小説なら省くようなところも全部書いてる印象。

    話としてはわりと好き。
    記憶喪失の青年から始まり、結局その青年は何者なのかぼかして終わる。客観的にはどう見ても呉一郎なのに。ドグラ・マグラの本が登場するのも混乱させられていい。
    全体的に夢の中のように辻褄が合うような合わないような時系列もよくわからないような感じ。読み終わった後によく考えても意味わからんとなるのも夢っぽい。

  • 学生の頃一度読んで約35年ぶりに再読。中身はほとんど忘れていたが、読んでいくと断片的に思い出すところもあった。
    「奇書」という印象はなく、とても描写が細かい印象。
    「外道祭文キチガイ地獄」もよくこのテンションでこれだけ続けられるなという印象。内容も面白い。
    当時の「精神病院」の状況について全く知らないが、作家独自の視点なのか、社会問題として認識されていたのか?
    中程の「空前絶後の遺言書」や「心理遺伝論付録」のあたりで、その内容の細かさとページの多さから挫折しそうになったが、その後はまた徐々に引き込まれて、最後は一気に読み進められた。最後は鳥肌の連続だった。
    また読み返したい思いもあるが、読む機会あるかな。

  • 夢野久作の大作ドグラ・マグラを初めて読んでみたが、初めは難しすぎて何を言っているのか全然分からなかった。そして難しいからこそわたしはどんどん物語の世界に惹き込まれていった。私はこのドグラ・マグラを何度も読み返し、自分の中の"?"をなくせるように取り組んだ。
    この物語は序盤に精神病棟にいる自分のことが何一つ分からない主人公(名前も今までの人生も)に、同じく精神病棟にいる主人公に殺された主人公の婚約者と九州帝国大学法医学教授の若林鏡太郎が登場する。 そして、序盤には若林鏡太郎が主人公に対して発する発言がこれからの物語の鍵となる。それは『私の手に残っておりまする該事件探求の方法は唯一つ・・・
    すなわち、その事件の中心人物となって生き残っておいでになる貴方御自身が、
    正木先生のご遺徳によって過去のご記憶を回復されました時に直接ご自身に、その事件
    の真相を判断していただくこと・・・その犯行の目的とその犯人の正体を指示していただくこと・・・この一途よりほかに方法はない事に相成りました』という言葉だ。
    ここに出てくる正木教授というのは主人公が目覚める一カ月前くらいに自殺した九州帝国大学精神病科教授のことを指す。
    この発言により、主人公はある事件の真相を暴くことのできるただ一人の人物だということを知る。そして若林鏡太郎は主人公に記憶を取り戻してもらうため医学部長室へ連れていくのだがそこには入院患者達が書いた論文が並んでいる。その中の一つにドグラ・マグラという論文があり、その論文の内容は驚くべきものだった。
    そして物語の中盤からどんどん論文のようになっていく。私的にはここの胎児の夢の話が
    1番理解できなかった。
    しかし、この論文を読む前と読んだ後では
    物語の解釈が非常に異なる。
    ここである疑問が私の中で浮かんだ。
    "もしかして今まで読んでいたものは主人公が追体験したものなのか、、?"

    後半はやっと殺人事件の詳細が提示される、、!!そして初めの方謎で謎で仕方なかったところがどんどん解き明かされていく
    綺麗な伏線回収!!
    全て読み終わった後また初めから読み直すと
    解釈が全っ然違ってくるのでオススメ!
    正直、最後まで読むのはかなりの忍耐力が必要だと思った、途中、意味不明で読むのをやめてしまう人も多いと思う。
    けど全世界の人に最後まで読んでほしい作品の一つ。

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著者プロフィール

1889(明治22)年〜1936(昭和11)年、福岡県福岡市生まれ。小説家。幼名は直樹。海若藍平、香倶土三鳥、杉山萠圓など複数の名義がある。祖父杉山三郎平の教育により弘道館記述義、四書五経、謡曲、仕舞を学ぶ。1915年、喜福寺にて出家し杉山泰道へ改名。1917年より雑誌『黒白』などにエッセイを寄稿しはじめる。1920年に九州日報社に入社。童話などを本紙に発表。1924年に一度退職するも、翌年に戻る。1926年に『新青年』で募集された懸賞に「あやかしの鼓」が二等で入選。文壇デビューを果たす。1929年『押絵の奇蹟』発表。1933年『氷の涯』発表。1935年『ドグラ・マグラ』が松柏館書店より刊行。1936年、脳溢血のため逝去。

「2025年 『怪夢 夢野久作 狂気ト理知ノ傑作集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

夢野久作の作品

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