感想・レビュー・書評
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ひとつの出来事をきっかけに、新しい論理が生まれてしまう。そういうところがバラードの『クラッシュ』ととてもよく似ている。
互いに痛みつけ傷つけあうという体験、そして、あやうく命が奪われるところまで行って引き返す。そんなことにってしまうと、クラッシュを求める特異な論理が生まれてしまう。
ただ、夢野の優れているところは、そんな論理を恋愛遊戯と言い切ってしまうところである。心中という、最高に贅沢な、日本特有の遊び。なんというシニカルな表現だろうか。誰かのためになんて死ねない。誰かを殺すことはできても、誰かとともに死ぬなんてことはできない。バラードのように無理な融合をさせない、死は死だと端的に言い放つ禅僧らしいやり方だと思う。
そんな遊びの語りで終始貫かれる物語。しかも酔った勢いでまくしたてるように語らせる。虚構か事実かわかるようでわからない。語りかけられる日本軍人の存在もまた同様。死の予感はあっても実際の死を書かない。またしても見事にやられた感じがする。詳細をみるコメント0件をすべて表示
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