冗談に殺す [青空文庫]

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  • 新字新仮名
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感想・レビュー・書評

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  •  あまりにもすらすらと、仕組まれたかのように話が進む。もちろん、これは小説なのだから当たり前だと言ってしまえばそれで終わる話ではあるが私はこの仕組まれすぎたストーリーに「……殺しても……いいのよ」とニコニコと笑った彼女を見ては何か見逃してはいないだろうかとゾワゾワとしてしまう。つまりは“私”のとった行動は彼女によって仕組まれたものではないだろうかと考えてしまうのだ。
     これは根拠のない一介の読者の感想のような、妄想のような都合のいい考えであるが私の印象に残る『私がこころみた「殺人芸術」に関する漫談を蒼白く緊張しながら聞いていた』彼女はその頃から動物を痛めつけては笑えるような猟奇的な思考を持ち合わせていたのではないだろうか。
     物語の後半でキーアイテムになる「鏡」、私にとっての鏡が彼女にとっての漫談だったのではないだろうか。一目や評判を気にする女優である彼女にとって常識とはズレたその思考は完全に隠してしまいたいものであったから、思考をうつす鏡になりかねない漫談に挑むのはのちに彼が鏡のまで立ち止まれなくなるように恐ろしいことであったのではないだろうか。
     一見、私によって猟奇思考に目覚め、そのきっかけである私に執着しているかのようにも思える彼女を、このように別の見方をしようとしてみると物語の中で多用される「…」やカタカナ表記の語でさえもその思考を後押しするスパイスのようにすら思えてくる。
     夢野久作の作品を読むのは初めての経験だったが隙間を作りながらも物語として成立させる彼の文章をもっと読んでみたいと思わせてくれた一作だった。

  • 完全犯罪を空想の一種と考えていた「私」が、女優と出会い、その人を知ることで、完全犯罪を実行すべく余儀なくされる運命に陥る物語。

    私は前半部分を読んで妙に自分自身に自信がある主人公だと感じた。その自信故か、主人公は女優が小動物を手にかけ楽しむ残虐性を持っていることを知ると、正義に駆られ彼女を殺してしまう。主人公は殺人を犯した後に、鏡を恐れるようになる。この理由を彼の良心が鏡に彼の半身として映ったからだと私は考えた。よって、いくら自分に自信を持ち絶対的な正義と思って人を私的に罰しても、人間は良心から自ら罪を白状してしまう、正義というものはとても脆いものだという作者からのメッセージがあると私は捉えた。

  • 「完全な犯罪」を成し遂げたと話す主人公の語り。
    突然失踪した元女優との秘密の生活はとてもエロく、そしてグロテスク。
    「完全な犯罪」を成し遂げた後、鏡を見る習慣が無くなったということは、自己を見つめるのが恐怖になったということかもしれない。元女優を殺したという事実を見つめることに対する恐怖、そして殺しへの快楽を見出してしまった、堕ちてしまった自己を見つめることに対する恐怖。
    ものすごくゾクゾクするお話しだった。特に「完全な犯罪」の後の心理戦は。

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著者プロフィール

1889年福岡県に生まれ。1926年、雑誌『新青年』の懸賞小説に入選。九州を根拠に作品を発表する。「押絵の奇跡」が江戸川乱歩に激賞される。代表作「ドグラ・マグラ」「溢死体」「少女地獄」

「2018年 『あの極限の文学作品を美麗漫画で読む。―谷崎潤一郎『刺青』、夢野久作『溢死体』、太宰治『人間失格』』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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