感想・レビュー・書評
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アナトール・フランス作、芥川龍之介訳。以前読んだ『文豪の翻訳力』で、芥川の翻訳が非常に的確だとの印象を持ったので、興味が出て、読んでみた。
西洋文学、特にクリスマスでおなじみの「東方の三博士」のひとりといわれる、バルタザールに材を取った短編。バルタザールとシバの女王・バルキスとの出会い、二人の間に流れる恋情が描かれる。シバの女王とエチオピア王が姿をやつしてとはいえ、そんなに市中を歩きまわれるのかとも思うけれど(笑)、幻想的で浪漫にあふれ、美しい。学生時代に読んだ、ネルヴァル『暁の女王と精霊の王の物語』に似ている気もしないではない。そこからどうやって、クリスマスのあのエピソードに収めてくるのか(こなくてもいいけど)ちょっと読めませんでしたが、いやあ、そういうことでしたか!罪つくりなひとだなあ、貴女は。
バルタザール自体には伝記もなにも残っていないので、この短編は完全フィクション。アナトール・フランスの作品はこの短編を含め、全てカトリックの禁書目録に掲載された(後に解除)らしいが、聖なるキャラクターがこういうことをやらかしてたらちょっとマズいだろ!という立場はわかる気もする(笑)。
芥川の翻訳についていえば、おそらく、原文と訳文のあいだで、余分な語彙を足したり引いたりしていない。フランス語はコンマとともにわりとだらだらと書き継ぐことのできる文章が特徴だけど、アナトール・フランスは詩人でもあるので、そんなに冗長な文章は書かないだろう。そこが芥川のシャープな文体とマッチしたのかな、と思う。きちんと突き合わせたわけではないから、ざっくりとした印象しか言えないし、そもそも間違ってるかもしれないけれど。
明晰な訳文でありながら、浪漫もしっかり残っていて、翻訳としては私はとても好きです。
無学な我は、ただつれづれのすさびにてよしなしごとを書きつくるのみ。でへへ。
無学な我は、ただつれづれのすさびにてよしなしごとを書きつくるのみ。でへへ。