ふるさと [青空文庫]

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    https://librivox.org/furusato-by-toson-shimazaki/

  • タイトルの通り藤村のふるさと馬籠を童話風に紹介する作品。作品設定時期は、『生い立ちの記(ある婦人に与える手紙)』と同じで、藤村の幼少期にあたる。内容自体も『生い立ちの記』と被る部分があり、登場人物自体も幼少期を共に過ごしたお雛、御爺さんなどが登場するあたりは、極めて近い。両者の大きな違いは、作品を語る相手がある婦人か、自分たちの子供であるか、という点と、道行く動植物と会話するかどうか、という点。『ふるさと』では、童話を意識してなのか、自身の幼いころを回想する主人公の”父さん”が、庭の梨の木や柿の実や鳥や石臼などと対話するという様子が描かれており、作者ともどもノスタルジックな雰囲気に浸れる。
    藤村の童話は何作かあるが、そのうち自分の手元にある『ふるさと』『力餅・をさなものがたり』では、執筆時期は『をさなものがたり』が一番早く、次いで『ふるさと』となる。私は『をさなものがたり』は舞台設定の時期が馬籠を出た後の話なので、こちらから先に読んだ。
    作中の”父さん”はまさしく幼い頃は自然に親しみ、竹馬やスキー・凧作りを始め、大変健全な子供であったことがわかる上、ところどころで出てくる馬籠の風土、五平餅だとか坂の多い道だとか、玩具も買えない土地であるとか、服もわらじも自分たちで作ったものを使う、などという様子がうかがい知れ、ガイドブックを読んでいるような気にもなれる。なかなか楽しい。
    中でも興味深いのは『生い立ちの記』ではあまり触れられていなかった作者の実家周辺についての記述である。隣の大黒屋の登場人物が出てくるのもそうだが、近辺にある○○屋という名前の店が列挙されていく一文(八幡屋・三浦屋・峯屋・俵屋・和泉屋など)は、逐一現在の馬籠と照らし合わせると面白いことだろう。永昌寺は藤村の遺髪と爪が埋葬されている寺院であるし、そこにご先祖が眠っているというのも『生い立ちの記』には見られなかった。また、隣村の妻籠から祖母が嫁いできたという話も、ここでより詳細にみられる。要するに、童話と銘打ってはいるが、いつもの藤村の思い出話的作品で、ジャンルをちょっと変えただけともいえる。ちなみにお気に入りの一文は、山の薬草を飲んだらすぐに病が治ったことを指して「お薬はあんな高い山の中にも蔵つてあるのですね」というところ。「一八 榎木の実」という作は、童話『二人の兄弟』にもどことなく似ているとメモしておく。
    「愚かな父さんは、好い事でも惡い事でもそれを自分でして見た上でなければ、その意味をよく悟ることが出來ませんでした」という言葉は『新生』執筆時にも出てくる一文だが、これが『新生』後から始まる『嵐』周辺の時期の作品であることをひっそりとうかがわせている。この時期は一作一作は短いが多作な時期だったからか、殊に以前聴いたような話もちらほら見られたが、全体的に優しい馬籠ガイドブックということで読んでいて楽しかった。
    次は『をさなものがたり・力餅』も読む。

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著者プロフィール

1872年3月25日、筑摩県馬籠村(現岐阜県中津川市馬籠)に生まれる。本名島崎春樹(しまざきはるき)。生家は江戸時代、本陣、庄屋、問屋をかねた旧家。明治学院普通科卒業。卒業後「女学雑誌」に翻訳・エッセイを寄稿しはじめ、明治25年、北村透谷の評論「厭世詩家と女性」に感動し、翌年1月、雑誌「文学界」の創刊に参加。明治女学校、東北学院で教鞭をとるかたわら「文学界」で北村透谷らとともに浪漫派詩人として活躍。明治30年には第一詩集『若菜集』を刊行し、近代日本浪漫主義の代表詩人としてその文学的第一歩を踏み出した。『一葉舟』『夏草』と続刊。第四詩集『落梅集』を刊行。『千曲川旅情のうた』『椰子の実』『惜別のうた』などは一世紀を越えた今も歌い継がれている。詩人として出発した藤村は、徐々に散文に移行。明治38年に上京、翌年『破戒』を自費出版、筆一本の小説家に転身した。日本の自然主義文学を代表する作家となる。

「2023年 『女声合唱とピアノのための 銀の笛 みどりの月影』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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