糸くず [青空文庫]

  • 青空文庫
  • 新字新仮名
4.00
  • (0)
  • (1)
  • (0)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 5
感想 : 1
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • 青空文庫 ・電子書籍

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • モーパッサンをきっちり読んだ記憶がないので、ダウンロードしてみた。訳者は国木田独歩。

    ゴーデルヴィルの市の立つ日に、ある男がとったしぐさから始まった事件の顛末。吝嗇家だと思われたくなくて取った行動は、身もふたもなく言ってしまえば、「李下に冠を正さず」という類のものだろうけど、てれ隠しに誰でもちょちょいとやってしまうことだとは思う。でも、男の出身地(狡猾な人間が多いとされている地方)や、市で出会った人との間に以前あったいざこざなど、不利な要素が積み重なっていくと、覆すのは難しい。生きていくうえであまりに単純で、一番めんどくさい類の災難。法律的には何にもなくても、世間というのは過酷で、そのリカバリーの困難さが劇的に、巧みにまとめられている。仏文学の慟哭というか、嘆きは大げさだと思うときも多いけれど、こういう物語には不可欠な要素だと思う。

    国木田独歩の翻訳は、なんとなく原文の形を残しつつ(と思う)も、日本語として無理もなく、読んでいてストレスが全然ないように思う。教養のない田舎の男のもの言いや、官吏の口上の書き分けが鮮やかにできる時代の訳文だから、ほぼ言文一致の世界に育ってきている自分にとっては、当時の常識のひとつも、上手さの物差しに数えてしまっているだけなのかもしれないけど。

    個人的には、翻訳文学では、訳文の精度というのは年々上がっているけれど、読者にぐっと入ってくる強さ、うまさというのは、前の時代のほうがあったのかもしれないな…とこの作品をはじめ、いくつかのクラシカルな邦訳を読んで感じている。いや、まったく個人的にですよ。

全1件中 1 - 1件を表示

モーパッサンギ・ドの作品

最近本棚に登録した人

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×