雁 [青空文庫]

著者 :
  • 青空文庫
  • 新字新仮名
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本棚登録 : 11
感想 : 3
  • 青空文庫 ・電子書籍

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  • この物語は、東京大学に通う主人公である「僕」が、同じく東京大学に通い、同じ上条という下宿先に間借りしている「岡田」と「末造」という高利貸しの妾として不本意に無縁坂の一軒家に住む「お玉」の切ない悲恋を語っている物語です。この物語を読み、印象的であったことが二つあります。
     一つ目は、語り手に、恋愛をしている当事者である「岡田」や「お玉」ではなく、あえて第三者である「僕」を選んでいる点です。前半は「僕」が見聞きしたことついて語られ、後半はのちに知り合った「お玉」から聞いたことについて語られています。ですが、本作ではそれだけでは「僕」が知りえない「末造」や未造の妻である「お常」の心情も事細かに描写されています。語り手をあえて「岡田」や「お玉」にしなかったことから、その他の登場人物の心情描写を表しやすくしているように考えられ、よく作りこまれていると感じました。
     二つ目は、運命的な出会いを果たし、互いに恋に落ちて結ばれるように読者に期待感を持たせておきながら、「鯖の味噌煮」と「雁」の不運が重なってしまい、「僕」と「石原」の邪魔が入ってしまったために「お玉」が「岡田」に声をかけられなかったことから、「岡田」と「お玉」はお互いに気持ちを伝えずに疎遠になり、悲恋してしまう最後の場面です。特にこの物語のタイトルにもなっていて、「石原」に不忍池で撃ち落とされた「雁」が恋にやぶれてしまった「お玉」を比喩しているように考えられ、とても切なく感じました。また、この場面は読んでいてとても悲しい気分になりますが、このシーンがあるからこそこの物語は読んだ後に読者の印象に強く残り、何年たっても不朽の名作であるのではないかと改めて考えさせられました。

    これらの二つが特に印象的であり、最後のシーンは読んだ後でも何度も思い出すくらいにとても衝撃的でした。結局「岡田」と「お玉」が結ばれることはありませんでしたが、とてもピュアな切ない恋愛が描かれている明治時代のラブストーリーであり、読んでみて良かったです。

  • 妾がどうこうというのが全くなじみがないから受け止め難く、当時の一般的な市井の感情も掴みにくい。
    そういうわけで一匹の雁がきっかけでいっときの邂逅にしかならなかった2人の結末が、いいとも悪いとも感じ取れないので、せっかくタイトルにもなってるキモのはずなのにもったいない読み方したかなと残念に思った。
    こういう誰かが語る風な書き方は当時の流行のようだが、書き方が語り口調じゃないのですっかり忘れて、後から一人称が出てきた時に誰?と思い出せなかったり…。
    版木屋がもう少ない、と書いてあったのが個人的にそうなのか……と一番気にかかった点だった。そうか〜。

  • 全文を録音して、librivox.org にアップロードしました。今、プルーフリスナーを待っています。プルーフリスナーとは、録音を確認する方です。プルーフリスニングがOKになれば、カタログされ、色々なところへ録音がミラーされます。
    プルーフリスニングをしてみませんか。
    https://forum.librivox.org/viewtopic.php?f=12&t=49099

    • ekzemplaroさん
      プルーフリスナーの申し出がありました。8章まで、OKを頂きました。嬉しいです。
      プルーフリスナーの申し出がありました。8章まで、OKを頂きました。嬉しいです。
      2013/11/22
    • ekzemplaroさん
      LibriVox でカタログされました。全文を聴くことができます。
      https://librivox.org/gan-by-ogai-m...
      LibriVox でカタログされました。全文を聴くことができます。
      https://librivox.org/gan-by-ogai-mori/
      2013/11/27
  • 高利貸しの末造の妾になったお玉は、無縁坂に家を与えられて暮らしていた。そこを折々通り掛る学生の岡田と、軽い挨拶を交わしたり、鳥篭に入り込んだ蛇を退治してもらったりするうち、恋心を抱くようになる。岡田の方も満更ではないのではと思い、実際何となく心を通わせそうな気配が仄見えてきたある日、末造が所用で遠くへ出かけるのをいいことに、岡田を家に誘おうと考える。女中に休みをやって実家に帰してやり、準備を整えて岡田を待つお玉。しかし岡田は近く洋行に発つことが決まっており、語り手に(そういやこれ聞き書き形式だった)報告したり、友達に会って雁を獲ったりしているうち、お玉には会えずじまいとなる。というような事を、後日彼女本人から聞いたという語り手。でも色気のある関係じゃないよと断りおいて話は終わる。

    『雁(がん)』と『雁(かり)』とどっちだっけと思っていたら、なんと同じ字でしかも同じ鳥らしい。紛らわしい。
    何故か何でも知ってる語り手だが、実はお玉本人から聞いてたという。どういう状況でそうなったのかは分からないが、恨み言の一つも聞かされて然るべきだろう。妾といっても現代で考えるそれとは随分趣を異にするようだが、末造がクズなのはガチ。むくいをうければいい。『文学ト云フ事』で見た予告編とはだいぶ違ってて、誰を中心に考えるかで読み方が随分変わるものだなと面白い。

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著者プロフィール

1862-1922年。小説家、評論家、翻訳家。本名は森林太郎。陸軍軍医として最高位を極める一方で、旺盛な文筆活動を展開し、晩年は歴史小説、さらに史伝に転じた。1917年から没するまで帝室博物館総長兼宮内省図書頭を務め、歴代天皇の諡号(おくりな)の出典を考証した『帝謚考』(1921年)を刊行。主な著作に『舞姫』(1890年)、『高瀬舟』(1916年)など。

「2019年 『元号通覧』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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