癩病やみの話 [青空文庫]

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  • 国書刊行会の『シュオッブ全集』を手に入れたいのだけど、よんどころない事情によってしばらく無理なので、こそこそ探した結果、青空文庫のお世話になって読んだ。何と訳は上田敏。得した気分である。

    タイトルのとおり、癩病を病み、人と交われずに生きてきた男の物語。イエスが癩病持ちの人を快癒させたという故事があるが、自分はその恩恵にあずかれないことで世間と神を呪いつつ生きている。

    「かくなるうえは主に属するものを捉えてやろう」という思いが、単純な神への怨嗟だけど猟奇的な気もするので、怪奇小説的な展開になるのではないかと思って読んでいると、そのとらえた「主に属するもの」がはたして年端もいかぬ少年、しかも少年十字軍に向かうものだということで、ドラマ性が別の方向に向いて行く。

    史実にあるとおり、少年十字軍としてエルサレムに向かった少年はほとんどが貧しく、キリスト教の深い教義や聖地の意味というものは何も知らない。何度も答える「知りません」に驚愕しあきれる男のさまは、そこそこ以上の教育を受けているだろうという男の見識も表すし、そのまま読み手の感想にもなる。

    ところが、この部分から使われる「イノセント」が肝。最初は「(何も知らない)馬鹿」と言う意味で使われているものの、次第にその「無垢さ、純粋さ」の意味が勝ってくる。少年への畏敬の念へトランスフォームしていくさまに「あわわわっ!」と震えがくるようだった。

    教科書的に設問して答えを求めると結構分かりやすい話のようにも思うけれど、最後まで読んでからもう一度読むと、「知りません」の意味づけが自分の中で、「この少年は何もかも知っているんじゃないか」という深さに変わって読める気がする。

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