性に眼覚める頃 [青空文庫]

著者 :
  • 青空文庫
  • 新字新仮名
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感想 : 6
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  • 簡潔に説明すると、男子の思春期を疑似体験することができる。小説は寺で父親と過ごす日常的な描写から始まる。主人公は自作した詩を雑誌に投稿した結果、掲載されたことがきっかけで詩の才能に長けた人物と友好関係を築いたり、その人物は女性との関わり方を知っているため、主人公は次第に刺激を受け始めたりする。さらに寺に賽銭箱の小銭を盗みに来る女性を知るが、自分がその女性を見たいがためにその罪を黙認し、賽銭箱の帳尻合わせまでする。なぜそのような行動までするのかという、男子が内面で考えている、人に対する見え方や捉え方を垣間見ることができる作品である。

     この作品でぜひ注目したい点は大まかに二つある。一つ目は情景描写である。場面が転換する度にその時の様子が繊細に描かれる。例えば夏から秋に季節が移ろいでいくさまや少しずつ冬に移り変わっていく空気感など、時間の流れの中にあるそれまでとの微妙な差異が緻密に表現されている。二つ目に、心理描写である。随所で受け取れる登場人物たちの心情の揺れ動きが読者を作品に引きずり込ませる。人と関わることによってそれぞれの登場人物が感化されていくさまの表現が現実味を帯びていて不覚にも感情移入させる。これら二つのポイントは作者が詩人であることを思い出させ、普遍的で日常的な一幕でも表現一つで見え方が変わることを示している。

     この作品は詩や言葉の表現の面白みを教えてくれる。回数を重ねて読むごとに、物事を表現することがいかに難しいか、そしていかに魅力的であるかに気付くことができる。単に男子が女性をどのように変態的に見ているかだけではない。確かに男子が表に出していない気持ちの裏側を覗いたかのような感覚に陥るが、それは連なっている言葉が奥行きの感じられる表現であるからこそ起こる現象である。室生犀星氏のような眼と観点があれば見えている世界はどんなに色づくことだろう。

  • 室生犀星初めて読んだ。
    あまりに身近で世俗的なのに、女性の清純さや可憐さ、妖艶さを感じさせる文章が凄く良かった。

  • 金沢に旅行に行くので、当地の文学者を予習(1)
    女性の美しさ(憧憬と妖艶の混沌)の描写の絶妙加減が素晴らしい。

  • なかなか刺激的なタイトル故、どんな作品なのか?
    と思って読んでみたけれど、
    2014年の視点で読む限りでは
    森鴎外の「ヰタ・せクスアリス」同様に
    刺激的でもなんでもななかった。
    ただ、きっと発表当初は「ヰタ・せクスアリス」と
    同じくそれなりの反響だったのかな?
    と思いを馳せてみたり。

    モテる友人を妬みつつ、
    女性への興味津々という主人公。
    「ヰタ・せクスアリス」とは違い童貞喪失が
    作中で描かれなかったのが、「眼覚める頃」
    というタイトルの由縁なのかな?

  • ふとした仕草の表現に表された、無限に広がる官能的な文章に心を掴まれた。目が離せない「私」と同じ気持ちになれる。

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著者プロフィール

詩:詩人・小説家。本名、照道。金沢生まれ。北原白秋・萩原朔太郎らと交わり、抒情詩人として知られた。のち小説に転じ、野性的な人間追及と感覚的描写で一家を成す。「愛の詩集」「幼年時代」「あにいもうと」「杏つ子」など。


「2013年 『児童合唱とピアノのための 生きもののうた』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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