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感想・レビュー・書評
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”憲法の日”に是非一読したい文書。
「日本国憲法」の制定に際し、第九条の「戦争の放棄」を盛り込むことに尽力された、幣原喜重郎元首相の考えが述べられた文書。
戦後間もない時期に、その戦争について正面から向き合い、深く考え、反省し、さらに、国民を含めて皆に関わる責任についてまで言及している。
そして、その上で、戦後日本の現状に思いを抱いて、「平和」の為の国家のあり方や、未来について述べている。
大変な混乱の中で、かくも冷静な分析と、政府として国民に対する姿勢の明確にして力強いメッセージは、リーダーとしてとても頼りになる姿勢を感じる。
本文書は、新憲法を制定するにあたり、重要な条項の一つとなる「軍備」について、幣原氏の「私一己の考え」と前置きしながらその考えを述べている。
そこでは、国家の安全の為に考えられる国際情勢を丁寧に例示している。
その未来を見通した例示を観るに、戦後日本が歩んできた国際社会の情勢と合わせてみると面白い。
一己の意見を表明し、そこから先に議論の端緒を提示しているあたりに、議論の出来る政治環境を感じる。
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昨今、社会全体が憲法議論に消極的で、あるいは「議論」そのものに後ろ向きな姿勢を如実に感じる事がある。
国政の場で「改憲」を持ち出す話しがある一方で、議論は全くなされているとは言えない。
一方、巷では、”憲法の日”の講演会に、憲法学者が登壇できないという事態が発生している。
それは、幣原氏が示した”議論”の姿勢と正反対の社会情勢ということになる。
われわれは、一体どんな社会に生きているのかとがっかりしてしまう。
少なくとも、現憲法の制定の頃には、こんなにも冷静に誠実に社会を見ながら、意見を交わす政治が行われていたのだということを確認する文書だった。詳細をみるコメント0件をすべて表示