- 青空文庫 ・電子書籍
感想・レビュー・書評
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「いれずみ」ではなく、「しせい」と読むということを初めて知ることになった谷崎の処女作。短い文章の中に、倒錯性が凝縮されている。
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なんというエロティシズム!女の肌に彫られた女郎蜘蛛が今にも動き始めるかのように映像として脳裏に焼き付けられた。
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冒頭から「全て美しいものは強者であり、醜いものは弱者であった。」という言葉が強烈であった。主人公の刺青師である清吉は、自ら彫る人から刺青の構図までを決め、更にはその刺青をすることに苦しむ男の声に快感を覚えている様にとても猟奇趣味な人間であると感じた。また散々男の刺青を施しているのに対し、夢は美女に姿勢を施すことというのもなかなかである。そんな清吉は今までどんな女を見てもこの人だという女には出会えずにいたのにもかかわらず、平清の前を通りかかった際に見つけた女は足を見ただけで今まで求めてきたような女だと思い、翌年に出会った時にもそれに気が付いたということも、かなり奇妙な人である。それに伴い冒頭に述べた美しいものは強者という、その基準は決して容姿だけではないのだということを表しているとも感じた。
また娘(清吉が惚れた女)に関しては、薬を与えられ眠っている間に勝手に姿勢を施されたにもかかわらず「お前さんは真先に私の肥料になったんだねえ」と言ったその姿は一見すればこれから先もいろんな男たちをただ肥料としていく性分の女として見られるが、女の強さを描いているようにも感じられた。清吉も娘も、娘の背中に清吉の魂と生命を注ぎ込んだ女郎蜘蛛の刺青を彫り上げた瞬間お互いの性格がガラッと変わるのが非常に面白い。私は、女が痛みに耐えて色上げを終えた途端、打って変わって態度が大きくなりまるで別人のようになったところで思わずゾワっと来た。清吉も女も、1つの刺青だけでそんなに情緒が変わるものなのか、と不思議に思う部分もある一方、その一つの刺青にすべてを注ぎ込んでいるのだという熱い思いも伝わってくる。
冒頭に述べたように「全て美しいものは強者であり、醜いものは弱者であった。」とあるだけにこの作品の1番伝えたい言葉はこれであると感じていたが、読んでいる途中、既に清吉が美女だと感じている女が苦しみながら刺青をされる側であることに違和感を感じることもあったが、最後のどんでん返しで清吉を圧倒する女の変わりっぷりにはきっと誰もが驚き、納得する場面であると思う。
一度この作品を読んだだけでは若干理解が難しい部分があったが、読み返すことでなるほどと感じることが多くあった。また刺青ということで読んでいるうちに自分自身も作品の中に入り込み刺青を彫る、色上げをする痛さがひしひしと伝わってくるような感情移入をしてしまう作品だった。短編ではあるがとてもインパクトのある作品であり、この短い中にも谷崎の独特な世界観をよく表している作品といえると思う。 -
美しい情景が浮かぶ。
鏑木清方の刺青の絵を思い出す。
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