D坂の殺人事件 [青空文庫]

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  • 新字新仮名
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  • あらすじ
    D坂の大通りにある白梅軒というカフェで、常連である“私”はボンヤリと外を眺めていた。向かいにある古本屋に目を向けていると、店と奥の間を仕切る商事の格子戸が閉められるのを見た。古本屋では万引きを防ぐために障子の隙間からでも見張りをするものであるし、ましてこの日は九月の暑い晩だ。“私”は違和感を覚えた。そうして古本屋を眺めていると、同じく白梅軒の常連である明智小五郎がやってきて、二人は示し合わせたように古本屋を見つめていた。
    どれほど時間が経っても奥の間から誰も出てこないのを不思議に思い、障子の向こうで何かが起きているのかもしれないと、二人は古本屋に向かった。障子を開け、明智が電燈をつけると、部屋の片隅に絞殺された古本屋の女房が横たわっているのだ。女房の体には、沢山の生傷があった。
    警察の調査は難航した。事件当時、古本屋の裏の路地を通った者はいないと証言があり、また、表から出た者もいないことは“私”と明智がよく知っている。その日、古本屋の主人は古本の夜店を出しに出ておりアリバイがある。古本屋にいた二人の学生は、障子の隙間から男の着物を見たと証言した。しかし、片方は黒色だと言い、もう片方は白色だと言う。不可解な密室殺人事件が完成したのである。
    “私”は、明智小五郎こそが事件の犯人ではないかと推理した。その推理を黙って聞いていた明智は、いきなりゲラゲラと笑い出し、事件の真相を話し始める。



    この小説のポイントは、“人間の記憶の曖昧さ”であると考える。“私”は、事件を客観的に見て、事実や証言を参考にして推理したのに対して、明智は心理的に人の心の根底を見抜いて推理した。人の記憶は曖昧なもので、着物の色のように食い違う証言でも見間違えたのだと考えることは難しくない。証言を踏まえて“私”は、犯人は黒と白の縦縞の着物を着ている人物=明智小五郎、と推理するのだが、実は縦縞の着物など初めから着ていなかったと言うわけだ。
    推理小説ということもあり、真犯人についてはぜひとも自分の目で確かめてほしい。話の途中で何度か作者が「読者諸君!」と呼びかけてくるのだが、一緒に推理している感覚になり楽しく読み進めることが出来るだろう。

  • 「D坂の殺人事件」は、
    国民的名探偵キャラクター「明智小五郎」の初登場作であり
    舞台は東京文京区の団子坂である。
    個人的に少年探偵団シリーズのイメージが強く、江戸川乱歩の作品を読むのも
    小学校以来だったが年齢があがったことにより文章の解釈の幅が広がっており、
    大変楽しく読むことが出来た。
    『私は、D坂の大通りの中ほどにある、白梅軒という、行きつけの喫茶店で、
    冷やしコーヒーを啜っていた。』
    このアイスコーヒーではなく「冷やしコーヒー」という書き方に特別感があり美味しそうに感じる。
    そんな行きつけの喫茶店で知り合った妙な男 明智小五郎と向かいの古本屋で起きた殺人事件に遭遇する。
    殺害されたのは古本屋の妻、首を絞められ横たわって死んでいた。
    古本屋の主人のアリバイも証明されたうえに、妻の遺体があった部屋は密室と言っていい状態であった。
    警察による犯人捜しは難航を極めていた。第一発見者である「私」と明智はそれぞれ犯人を見つけるべく
    調査と推理を始めた。そんななか、様々な証拠から私は明智が犯人ではないかと推理するが…。
    江戸川乱歩の作品は奇妙さや怪奇的なものを感じる印象があるが、この作品では犯人や証言人の発言、
    明智をだんだんと疑い始める「私」や犯人だろうと言われた明智の反応など登場人物の心のうちが
    想像しやすく台詞や行動に親近感がわくような感覚を覚えた。
    人間の記憶など曖昧で思い込みなどで簡単に変わってしまう、それを表すような証言の食い違いや
    それを踏まえた作中での「私」の推理の仕方は実際の普段の生活での考え方への近さを感じた。
    また、犯人と被害者の関係性は、お互いに不利益になる者ではなく
    お互いの欲を埋め合わせるものだったこと、事件はその欲が抑えきれず暴走してしまったことで
    起きたこと。これらの人間が誰しも見られたくはない裏の表情をうまく表されており、
    人の欲の大きさ、限界のなさを感じ取ることが出来、鳥肌がたつような恐怖を感じた。
    江戸川乱歩の作品は怪奇的なものを感じると書いたが、この作品は書かれた時代は関係なく
    人間の隠された性癖や変態性を感じさせる作品であった。
    読んでいる最中は、作中の「私」の考えに納得してしまっていたけれど、読み終えた後は
    そういうことだったのかと改めて読み返したくなる作品だと思えた。
    短編作品だが、文章の至る所に犯人を読み解くヒントがちりばめられており
    読み終えたときは長編小説を一冊読んだような満足感が得られた。

  • 今回はこの江戸川乱歩の『D坂の殺人事件』という作品を読んだ。結論から言うと、面白いと感じた。

    まず面白いと思ったのは、アイスコーヒーを冷やしコーヒーと表記していたところだ。アイスコーヒーが飲まれ始めたのは大正時代で、その頃は冷やしコーヒーと呼ばれていたらしい。このような少しの表現にも時代をかんじられ、印象に残る単語が多かった。
    次に面白いと思ったのは人間のリアルな発言である。犯人の後姿を見たという学生の証言が大事なところでかみ合わなかったり、傷について聞かれ気まずそうにする主人。よくできたミステリーでは目撃者の意見がしっかりしていたりする。しかし現実で起きた際、そんな一瞬しか見えなかったことを覚えていられるだろうか。この作品ではそういう人間味のあることが多い。そして殺人事件の推理のパートが格段に面白いと感じた。私の推理を聞いた時、その時書かれていた証言、状況すべてを回収していた名推理だと思った。しかし、明智小五郎の心理を見て行われた推理、これがとても興味深いものであった。蕎麦屋の主人がサディストであるということ。また古本屋の女房はマゾヒストであるということ。これらを知ったとき、なぜ古本屋の女房と蕎麦屋の女房が傷だらけなのか、首を絞められているのに抵抗している痕跡がない理由もすべて納得することができた。今まで合わない性癖の人と過ごしていた二人が出会ってしまったことから、「傷つけてほしい」「傷つけたい」という欲望が爆発して今回の事件が起きてしまった。明智がこの真実を警察に言いずらいのは、被害者が存在しないためであった。殺された側も絞首を望み絞める側も悪気がなかったのだ。最後は蕎麦屋の主人が自首して終わるという結末であった。
    江戸川乱歩の作品はこのような人間の隠れた性癖を扱っている、非常に人間臭いが小説のような少し現実離れしているストーリーがいくつかあるため、もっといろんな作品を読みたいと思った。

  •  D坂大通りの中ほどに白梅軒というカフェがある。当時学校を出たばかりであった“私”はあてどもなく散歩に出て、このカフェで冷しコーヒーを飲むのが日課であった。

     この作品は江戸川乱歩の作品に度々登場する”明智小五郎“の記念すべき初登場作品である。

     物語は、白梅軒の向かいの古本屋で密室殺人事件が起きるところから始まる。何とか事件を解決しようと推理を始める“私”であったが…。

     犯人が仕掛けたトリックとは?事件の裏に隠された“加害者”“被害者”それぞれの人間像と、人間だれしもが持っている他人に知られたくないない裏の顔が事件の鍵を握る。



    「物質的な証拠なんてものは解釈の仕方でどうでもなるものですよ。一番いい探偵法は、心理的に人の心の奥底を見抜くことです。」

  • 物語の語り手である「私」はD坂の大通りにある白梅軒(はくばいけん)という喫茶店で向かいの通りの古本屋を眺めていた。古本屋の店主の妻は官能的な美人として有名であったが、店が開いているのに関わらず、彼女も店主も姿を見せなかった。そこに「私」と同じく白梅軒の常連であり、探偵小説好きとして馬の合った明智小五郎がやってくる。古本屋の様子を怪訝に思った二人が、喫茶店を出て古本屋へ向かうと、店の奥で店主の妻の死体を発見する。しかし、その後の警察による捜査の結果、その部屋は密室だったことが判明する。「私」は自身の推理から明智小五郎が犯人ではないのか、と疑うが、それを聞いた明智小五郎は笑って、自身の推理を披露し、それによって事件は解決する。

    ミステリー好き以外にもよく名の知れた江戸川乱歩の短編の一つ、D坂の殺人事件は明智小五郎が登場した作品でもある。明智小五郎と言えば、横溝正史の「金田一耕助」や高木彬光の「神津恭介」と並び、日本三大探偵として名を挙げられるほか、世界一有名な探偵の一人、シャーロック・ホームズにちなんで、「日本のシャーロック・ホームズ」と呼ばれることもある名探偵である。
    少年探偵団シリーズの明智小五郎と本作の明智小五郎を読み比べるのもとても面白い。

  • 結末は比較的予想しやすかったが、被害者と犯人の関係を詳しく知っていくほど面白くなっていく。
    また、当時不可能と考えられていた日本家屋での密室殺人の通風が覆されるとても面白い作品。
    何回か読むと、見えなかった部分も見えてくると思うので、またじっくり読んでみようと思う。

  • あらすじ
    「夏のある日、『私』が喫茶店でアイスコーヒーを飲んでいると、知り合いの『明智小五郎』という青年と出会う。窓から向かいの古本屋を見ながら会話しているとその古本屋の様子がおかしいことに気づき、2人で向かうと奇妙な殺人現場を見ることとなる。」
    この小説は名探偵「明智小五郎」の初登場作品であり、まだ若い書生の頃の話である。日本家屋では難しいとされた「密室殺人」や当時ブームとなっていた「心理学」に焦点に当てた作品でこの作品が生まれたことで「日本の探偵小説」は発展していくことになったと言っても過言ではないと私は思っている。

    実のところ「私」も「明智小五郎」も推理を身内で披露しあっただけであり、「殺人事件」を解決したわけではない。犯人は「自主」して捕まっている。
    あの某子供名探偵などで「探偵」が正義の味方のような感覚をデフォルトで持っている私にとっては、この推理第一で割とひとでなしというホームズなどの昔の探偵にあるこの感じが逆に新鮮な作品だと思う。
    推理小説が好きならば現代との違いで推理小説の発展や流行の変化を感じる為にも一度は読んでみるのをお勧めする。

  • 江戸川乱歩作品は初めて!

    100年も前の作品なのに、真相が結構現代的でビックリした...!性癖一致による不倫の末の殺人ってことよね??100年前にすでにSMの概念あったんだあという驚き( ゚д゚)当時の読者たちどんな反応だったんだろう...気になるぅ...

    漢字の使い方とか現代とは違うところは多少あるので少し読みづらさも覚えたけど、でもそれもまたいい味出しててよかった!昔はこういう漢字使ってたんだ〜的な。

    短編だからサクッと読めた!

    明智小五郎が、「やわらかそうな本の上に座ってね〜」みたいなこと言ってて笑ったww客人を本に座らせることあるー?!ってなったwww

  • 以前から気になっていた作品だったので、せっかくの機会にと思い手に取った。

    この作品を読んで私が興味深いと思ったのは「私」と「明智小五郎」それぞれの推理パートである。最初に読んだ際には「私」の推理に納得していたのだが、後半で聞かされる「明智小五郎」の推理によって「私」の推理が全てひっくり返される感覚は読んでいて非常に面白かった。特に「明智小五郎」の推理では人間の心理を実際の実験結果を踏まえて話すことで「私」も読者も納得せざるを得ないというのが、興味深い展開であった。こうした心の落としどころがあるということが、この物語の世界観に引き込まれる要因の一つなのだろう。また、犯人と死亡した女性がサディスト、マゾヒストであったという衝撃の事実も妙に人間らしさ感じさせる部分であり、この事実を知ったさいには驚愕した。江戸川乱歩はこのような、普段は知られずにある人間の癖を、現実離れしたようで妙に現実味を感じさせる物語と絡ませることで、上手く表現していると感じた。リアルとフィクションが良い塩梅で組み合わさっていることが江戸川乱歩の魅力なのだろう。読んだ後にすっきりと出来る作品であった。

  • 主人公の私は、白梅軒というカフェで冷やしコーヒーを啜っていた。
    そこで知り合った妙な男・明智小五郎と名乗る男の幼馴染が、
    丁度真向いにある古本屋の女房になっていることを知る。
    古本屋を二人で尋ねると、店主も女房も出てこず、上がり込むと、
    暗く電気をつけるとそこには古本屋の女房の死体があった・・・。

    この作品には、読者に語り掛けるような私によるナレーションが
    入ってきて、読者に何となく挑戦状をたたきつけているような、
    感じになっていた。(森見登美彦の四畳半神話大系のような)
    江戸川乱歩作品で明智小五郎が初登場する作品と言うことで、
    明智小五郎の頭脳明晰なところは描かれるが、謎な人物であり、
    素性はよくわからなかった。
    読んでいて、終わりに近づくにつれ、
    言っていいのか、失楽園の元ネタ?って思うような思わないようなって
    なったのは自分だけでしょうか。

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著者プロフィール

1894(明治27)—1965(昭和40)。三重県名張町出身。本名は平井太郎。
大正から昭和にかけて活躍。主に推理小説を得意とし、日本の探偵小説界に多大な影響を与えた。
あの有名な怪人二十面相や明智小五郎も乱歩が生みだしたキャラクターである。
主な小説に『陰獣』『押絵と旅する男』、評論に『幻影城』などがある。

「2023年 『江戸川乱歩 大活字本シリーズ 全巻セット』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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