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青空文庫 ・電子書籍
感想・レビュー・書評
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知人が読んでいるのを小耳にはさんでダウンロード。
資料として保管しておいた、5年前に失踪した女性の記事が妙に気になり、その足跡を追ってみようと企てた作家と、その周りの人々、その反応が描かれる。
今そこに姿のない人物を複数の視点から描く物語はベケット『ゴドーを待ちながら』から川上弘美『ニシノユキヒコの恋と冒険』までよく取られる構成だし、個人的に大好物でもあるので、もうそこだけでおいしい。
それに、失踪にまったく心当たりのない両親、勤務先の上司・同僚、高校時代からの親友、行きつけのレストランのマダム、モデルに使っていたという画家、彼女と同い年・ボディスペックの詩人に、語り手が接触する相手が語る失踪者の像、部屋に残された小道具と秘密めいたスキルなど、ミステリー小説仕立ての登場人物と小道具のすべてには、誰にでも疑惑のフラグが立ちそうである。
しかも、取材対象と同化していく詩人のありさまや、失踪した女性に対して秘められていたであろう、ある人物の恋愛感情なども、手掛かりとして後々効いてきそうな気がするし、終盤に疑惑要素を追加投入しているあたり、中・長編ミステリー小説として単品で売るならば、「驚愕のラスト!」と帯にでも書かれそうな気がする。でもそこが片岡作品であってだな(笑)、ある意味斜め上に驚愕のラストなんですよ。「えっ、ここで?」と思っちゃった。
定番のミステリー小説の観点からすれば、あと一・二手は確実に展開させないと読者は納得しないし、ここで「下巻に続く!」なんだろうけど、この段階で結末とするという、梯子外しのタイミングが異様に効いている気もする。と薄暗い階段を速足でのぼって、行き止まりにあるドアのノブをひっつかんで、回すと同時に一歩踏み込んだら「うわっ…」と放り出されるというか、踏み外して落ちてくというか、「おっとあぶねえ!」と踏みとどまるというか。このレベルは読み手の中で強弱があると思うけれど、こういうラストは、私は意外に好きですよ。説明しすぎたら逆につまらない気がしますもの。詳細をみるコメント0件をすべて表示
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