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感想・レビュー・書評
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青空文庫・片岡義男作品まつりが自分の中で開催されてしまったのか、『道順は彼女に訊く』に続いて読んだ作品。
東京で高校生活を送る、二人の男子高校生~大学生の何年かのお話。「1960年に20歳になる」という設定なので、社会的には戦後の面影が残っているはずなのだが、2人の育った環境に金銭的な余裕がみられるからか、そんなにドメスティックな感じは受けない。そして、年齢的にもタイトルの「東京『青年』」には違いないのだが、しゃべっている言葉のスピーチレベルというか、思慮深さが完全に今の「大人」レベル。なので、現在の時間に置き換えると、彼ら二人の歳になっても、たいていの「青年」は「少年」といっていいほどの印象になってしまう。片岡義男が仕掛けた設定といえばそれまでなのは理解しつつも、ライトノベルや学園ミステリーの主要登場人物の性格や口調の設定をみると、ついついそう思ってしまう。
そして、展開するのは完全に大人の物語だ。美しい女性に敏感な男子A、彼の友人で写真の腕が玄人はだしの男子Bが、自分と接点を持った女性とやりとりし、過ごす時間がかなり濃密に描かれる。私自身、片岡作品原作の角川映画全盛期は知っているものの、それを映画館に見に行くにはちょっと年齢が足りなかったような世代なので、その後の情報で「どっちみちユーミン満載の、ぺらっとお洒落軽いホイチョイ・プロダクション系だろう」と冷めてみていたところもあった。ところが実際は、お洒落感よりもはるかにストロングテイストあふれる筆致。あの英米文学直訳的な筆致で、すべてが知的に的確に描写されるというんでしょうか、直接のラブシーンなどはちょっと驚きますわ。
片岡作品のあとがきには、表題作を書くうえでの想定や構想の組み立てがかなりテクニカルに書かれているので、小説を書きたい人にはすごく役立つ気がする。今はネットの小説家志望者サイトなどでも知られたパターンかもしれないけど、この小説のあとがきでも、時代と男女の数を設定して展開した筋道が書かれていた。それを読めば確かに「なるほど」と思う。でも、作品としてみたら、優子さんのしばしの退場が、後半の謎とき仕立ての展開の伏線としてはちょっと弱いし、節子さんのあっさりとした退場も、ちょっと物足りないと思う。ロンド方式と言えないことはないけれど、やっぱり、この2人分の効きが私の好みからは弱めだと感じる。
たぶん、この時代をほかの小説家が題材にすると、朝鮮戦争特需を経てイケイケドンドンになっていく日本モーレツ会社員社会をちりばめて描きそうなものだけど、片岡作品はそういうところをすっ飛ばして(登場人物たちのバックグラウンドは時代背景を踏まえてリアルです、念のため)、軽やかで、しかも確信に満ちて進んでいく個人個人の物語に仕上げていくところが持ち味なんだろうと読み終えた。それに、あの彫像の置いてあった短大って、知っているところがモデルのような気がする。詳細をみるコメント0件をすべて表示
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