秘密 [青空文庫]

著者 :
  • 青空文庫
  • 新字新仮名
4.50
  • (2)
  • (2)
  • (0)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 17
感想 : 3
  • 青空文庫 ・電子書籍

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 青空文庫で再読。秘密が持つ魔力。

  • この秘密という作品は、主人公である「私」が周囲との関係から逃れ出ようと思い浅草のお寺でひっそりと暮らすという場面から始まる。この「私」は普通の刺激に慣れてしまい不思議で奇怪なことを始めた。毎晩服装を変えて公園の雑踏の中を歩いたり、ついには着物を着て化粧をし女の姿で歩くようになった。そんなある日映画館で、昔上海に旅行している途中汽船の中で暫く関係を持っていた名前も知らない女に再会する。後日二人で会うことになり目隠しをされながら人力車で女の家に連れていかれるという奇妙な逢引が繰り返されるようになった。そんな中で「私」は好奇心に駆られ一度だけ目隠しを外してもらった。後日その不思議な街の光景が忘れることが出来ず、その町の在処を探し見つけ出しさらに女の身元も知ってしまう。そして全ての秘密を知ってしまった「私」は女を捨て、血だらけな快楽を求めるようになった。というあらすじである。
    この作品を読んだ感想としてとてもゾッとするものを感じた。このような作品をかく谷崎潤一郎という人がどのような人物なのかとても興味が湧いた。谷崎潤一郎の作品は読んだことがないが他の作品もきっとこのような奇妙で面白い作品があるのだろう。この作品を読んでいると自分が平凡であることを感じる。主人公の「私」は刺激を感じる為に女装をするということだけでなく目つき口つきも女のように動き、女のように笑おうとする。そこまで完璧に女を演じ、自分が本当は女ではなく男であるという秘密を抱えながら、周りからは女として見られる興奮を感じているというところが谷崎潤一郎の作品らしさであるのだろう。さらに女と再会してから繰り返し行われる目隠しをして女の家を往復するという描写はとても谷崎潤一郎の変態さを感じた。「私」に目隠しまでして謎多き女だと思わせたかったのに、結局は「私」が気になってしまい秘密を暴きそしてあっさり捨てられるという結末になった女のことをとても気の毒に感じた。最後の文の『私の心はだんだん「秘密」などと云う手ぬるい淡い快感に満足しなくなって、もッと色彩の濃い、血だらけな歓楽を求めるように傾いて行った。』という部分には恐怖を感じた。「秘密」という題名だが、結局は秘密が暴かれてしまうのだなと思った。全体を通して、最初は秘密という状況を楽しんでいるが結局はその秘密を暴きたくなり、その秘密を知ったら終わってしまうという人間の本質を描いているのだと感じた。どんなことも今の状況では満足出来ずその先のことを知りたくなってしまうものなのだろう。

  • 私自身、谷崎潤一郎の作品をちゃんと読んだのは初めてだったが、とんでもない人間だということはわかった、というのが第一の感想だ。この本を読もうと思った理由はただタイトルに惹かれたからという理由だが、私が想像していた「秘密」よりももっと深く離し難い「秘密」であったように感じた。
    普通の刺激に飽きてしまい、どんな遊びにも満たされず、女装をするようになった「私」。まずこの時点で、新たな刺激を求めた結果、犯罪に走るのではなく、見つけた美しい着物で女装をするというあたりに谷崎潤一郎の絶妙な変態さが表現されているように感じた。さらに女装していることそのものが「秘密」ではなく、女装している自分、女性の見た目をしているが本当は男である、男を隠しているということを「秘密」としている点に対して非常に興味深く感じた。また、女装した姿で街を出歩き、犯罪を働くのではなく、「秘密」を持ち、犯罪を働いた人間のように自分を思い込むことに快感を得るという行為は「秘密」の向こう側を体感する行為なのではないかと感じた。
    男とT女が再開する場面で、男が女装をしているにもかかわらずT女はきっと早い段階で男の正体に気付き、わざわざ隣に座り、気づかれないように手紙を添えたと思うが、その場では美貌を露わにし、周囲の視線の先として似合うような女の態度を演じていた。だが、その翌日以降に男と会い2人になるときは別の人物のようになっている。少し深読みしすぎかもしれないが、T女は上海への航海での男を忘れられなかったため少し小太りだったのが細なり、また、男を女装の状態でもすぐに見つけ、隣でアピールしたのではないかと考えた。ただ自分の屋敷で2人になったときのT女は「秘密」を持ちながらも、素のT女であったように感じた。また、T女はきっと女装している男を見つけた時から、男が刺激を求めていることを察していたのではないか。だからこそ、いつまで経っても自分がどういうものでどこに住んでいるのかを教えたくなかったのだ。車の中で男に少しで良いから外を見せてくれと言われたときはきっと、好きな人の望みをかなえたい一心と好きな人に対して「秘密」という名の刺激を与えて話さないようにしたいという気持ちで複雑だったのではないか。結局好きな人の望みをかなえたいという方に少し傾いてしまった結果、男にヒントを与え、「秘密」を暴かれてしまい、捨てられてしまった。T女の想いが裏目に出てしまったと感じた。
    全体を通して、独特な興奮を感じた。「秘密」というものは知ってしまったら価値がないということを深く考えさせられた。ドロドロしてそうで、してないそんな不思議な変態性に埋もれる感覚になった。日常に紛れ込む「秘密」に興味が沸いたけれど知らないままでもいいのかもしれないと感じた。

全3件中 1 - 3件を表示

著者プロフィール

谷崎潤一郎
明治十九年(一八八六)、東京日本橋に生まれる。旧制府立一中、第一高等学校を経て東京帝国大学国文科に入学するも、のち中退。明治四十三年、小山内薫らと第二次「新思潮」を創刊、「刺青」「麒麟」などを発表。「三田文学」誌上で永井荷風に激賞され、文壇的地位を確立した。『痴人の愛』『卍(まんじ)』『春琴抄』『細雪』『少将滋幹の母』『鍵』など、豊麗な官能美と陰翳ある古典美の世界を展開して常に文壇の最高峰を歩みつづけ、昭和四十年(一九六五)七月没。この間、『細雪』により毎日出版文化賞及び朝日文化賞を、『瘋癲老人日記』で毎日芸術大賞を、また昭和二十四年には、第八回文化勲章を受けた。昭和三十九年、日本人としてはじめて全米芸術院・米国文学芸術アカデミー名誉会員に選ばれた。

「2022年 『人魚の嘆き・魔術師』 で使われていた紹介文から引用しています。」

谷崎潤一郎の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×