孤島の鬼 [青空文庫]

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  • 青空文庫
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  • なぜ木崎初代は殺されたのか。主人公蓑浦金之助には結婚を約束した木崎初代という恋人がいた。しかし、その木崎初代の死から本書は始まる。木崎初代は何者かによって殺された。この謎を解き明かし木崎初代の仇を打つべく主人公は素人ながらも事件の捜査を始める。その過程で深山木幸吉という変わり者で博識な友人と諸戸道夫という同性でありながら主人公を性的に愛するという奇妙な友人がでてくる。深山木はなかなかの名探偵ぶりを見せ事件解明の半ばであまりに詳しく事のあらましを知りすぎたために的によって衆人環視の中不可解な殺人の犠牲者となってしまうが、諸戸は木崎初代殺しの重要な手がかりを握る男として主人公と共に表題ともなっている孤島に向かうのだ。そこで暴かれる木崎初代の殺人事件というだけではおさまらない島内で行われている人体実験、島内に隠された財宝。主人公と諸戸二人は無事に孤島に巣食う鬼の魔の手から逃げおおせることができるのか。ざっくばらんに語るとこのような内容である。本書は、江戸川乱歩の趣味嗜好が一番詰め込まれていると言っても過言ではない作品であると私は思う。本書は推理小説でもあり怪異小説でもある言える小説である。
    まず、この小説が推理小説であると言える所以であるが、やはり“恋人の死”によって主人公及び友人たちが探偵となるところであろう。素人ながらも着実に証拠を掴み、初代の死は彼女の持つ家系図のせいであると知る。この家系図は鬼の住まう島に眠る莫大な財宝の手がかりが記されているのだ。主人公と諸戸は初代殺しの真相に迫った後、財宝のありかの暗号を読み解き、島の地下に降り立つのだが、道に迷い二度と陽の光を浴びられないのではないかという極限の状態に陥ってしまったりと非常にハラハラする。
    怪異小説である所以としては、鬼の住まう島では様々な異形の者が生活している。顔の一部分が熊である娘、男女のシャムの双子、一寸法師など彼等全ては島主であり、本書の鬼として書かれる片輪者、諸戸丈五郎のあたりまえの人間への復讐心から作り上げられた人造の片輪者たちなのである。「子供を首丈け出る箱の中に入れて、成長を止め、一寸法師を作った。顔の皮をはいで、別の皮を植え、熊娘を作った。指を切断して三つ指を作った。そして出来上ったものを、興行師に売出した。」彼はこのようにして日本人を全て片輪者にすべく孤島で奔走していたのだ。本書に出てくる鬼とは最初から鬼だったわけではない。人々の片輪者への差別の心が作り出してしまった鬼だったのだ。
     最後にこの小説のもう一つ大きなテーマとして、同性愛が挙げられる。主人公の友人諸戸は育ての母からの性的虐待により、女性不振で同性愛的思考の持ち主である。そんな諸戸に好意を向けられ、島の地下で迷った際には接吻さえされたのだ。主人公は異性愛者だったのでまったくもって揺らがなかったが、このような諸戸の性的嗜好が最後まで受け入れられなかったことも本書の特徴であろう。最後には無事帰還するのだが、息をつく間もなく諸戸は病で帰らぬ人となってしまう。病床で息を引き取るまで呼び続けた名前が主人公のものであるというところがなんとはなしに本書の読後感を悪くさせる。
    本書の初出は『朝日』という雑誌で1929年である。このころには片輪者への差別も、同性愛への不理解も今よりもっと厳しかったのであろう。そのような差別が人を鬼にしてしまうこと、苦しませてしまうことを織り込みつつ推理冒険譚として描いた本書は現代の人々にも一度手に取ってほしいように思う。

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著者プロフィール

1894(明治27年)〜1965(昭和40年)、小説家。
1923年、『新青年』に掲載された『二銭銅貨』でデビュー。
1925年に『新青年』に6ヶ月連続短編掲載したうち2作目の『心理試験』が好評を得、初期作品は日本人による創作の探偵小説の礎を築いた。また同時期に『赤い部屋』『人間椅子』『鏡地獄』なども発表、幻想怪奇小説も人気を博した。
1927年に休筆したのち、『陰獣』を発表。横溝正史に「前代未聞のトリックを用いた探偵小説」と評価される。
1931年、『江戸川乱歩全集』全13巻が平凡社より刊行開始。
1936年、少年向け推理小説シリーズの第1話「怪人二十面相」を雑誌『少年倶楽部』に連載。太平洋戦争により一時執筆を休止したが、戦後再開し、子どもたちから絶大な支持を受けた。

「2021年 『人間椅子 江戸川乱歩 背徳幻想傑作集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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