痴人の愛 [青空文庫]

  • 青空文庫 (2017年7月30日発売)
  • 新字新仮名
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感想・レビュー・書評

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  • 『痴人の愛』は、マゾヒズムを象徴すると言われる所以がわかる作品だ。

    会社で「君子」と呼ばれる真面目なサラリーマンの主人公・河合譲治が、カフェで給仕をしていた美少女・ナオミを見初め、自らの妻にする。はじめは、「陰鬱な、無口な児」のように見えていた彼女も成長し、「魔性の女」へと成長したナオミに翻弄されながら、主人公は彼女に溺れていく。

    本作で印象的な馬乗りの場面は、マゾヒズムを彷彿とさせる代表的な箇所と言える。しかし、卑しい表現は感じられず、一つの美のかたちが書かれているように思われる。これは、谷崎の思い描く「美」というものであり、彼らしい表現ともいえる。その場面はぜひ、自ら読み、体験してほしい。

    最後に、本書には「私自身は、ナオミに惚ほれているのですから、どう思われても仕方がありません。」と書かれていることから、譲治は彼女に翻弄されるも決して哀れな人物ではなく、幸せな人物といえるのではないかだろうか。この文からは、愛のかたちとは一体どのようなものなのかについて考えさせられる。

    本作は、耽美派を代表する小説家・谷崎潤一郎らしい作品といえるだろう。

  • 子どものころ読んだときは面白いと思ったと記憶しているが、今回は退屈でなかなか先に進まなかった。

  • 痴人の愛は、谷崎潤一郎の長編小説である。主人公の譲治は、恋愛に対して、源氏物語の光源氏のように紫式部のような女性を見つけて育て、知識、教養などを身に着けて自分の理想の女性に育てたいと思っていた。女給をしていたナオミという15歳の少女を見つける。しかし家はとても貧しく家族を養っている。そんな彼女を見て、一目ぼれした譲治は、彼女の家族に頼みこみ、結婚することが出来た。しかし、実際は。。。この作品では、冒頭に書かれている言葉で「あまり世間に類例がないだろうと思われる」夫婦関係である。ナオミ本来は無邪気な少女であり、特に鎌倉でサンタルチアを歌うシーンは私達と変わらないように思える。しかし、どんどん傲慢になっていくナオミの魅力に取りつかれていく彼の語り口調の文章構成も魅力の一つである。谷崎潤一郎の特徴として、マゾヒズムな内容が多く、谷崎自身もそのような傾向があったと言われている。そのことが表れている場面として、ナオミは譲治に馬乗りにあるシーンが三回も書かれており、三度目は、譲治自らが馬乗りするように要求しており、ナオミは、そんな彼に対して男のような口調で、これからなんでも言うこと聞くか、いくらでもお金を出すか、一生干渉しないかを要求して、自分の言う通りになるように彼を言い聞かせて、主導権を握る場面がある。
    更に、自分のことをナオミさんと呼ぶようにいい聞かせている、この部分こそマゾヒズムを代表する瞬間であり、この作品で、彼がナオミに
    これから一生奉公していく人生を決定された重要な場面である。彼自身は、実際はこの作品は、ナオミ
    のように魔性で自由奔放な女性のことを称して、ナオミズムという言葉が出来たほど大ヒットした作品
    である。
    私は、この本を読む前に大体のあらすじを知っていたが、何故ナオミという少女がこれほど彼を魅了するのか、最後まで分からなかった。しかし、譲治がナオミにドンドン蹂躙されていく様子は、読んでいる側としては面白く、又、ナオミの視点で見るか、譲治の視点で見るかに分かれ、二つの視点で読むこともよいと思う。最後に普通の恋愛小説にある、ハッピーエンドやバッドエンドとは違った形の最後がとても魅力的な作品であると感じた。

  • 痴人の愛は真面目な男性と十五歳の少女が深い関係になっていく「耽美的」で「メロドラマ」のような作品である。

    カフェーで給仕をしていたナオミという少女に一目惚れした真面目で独身の電気技師である主人公、譲治は理想の結婚を夢見て彼女を引き取り、どこにだしても恥ずかしくない立派なレディーに育てようとする。

    しかし、ナオミは譲治のそんな期待と理想を打ち砕くような少女であった。男遊びが大好きで家事もせず、金遣いは荒い。そんなナオミに譲治は段々と狂わされていく。途中そんな彼女に呆れて家から追い出したりもするがどんどん美しさが増していくナオミの美貌と肉体の虜となり、最終的には会社を辞めて田舎の財産を売った金で横浜に家を買って彼女の肉体の奴隷として生きていく。
    一見ハッピーエンドには見えない結末ではあるが、譲治からすると自分好みの美貌を持つナオミと一緒に住むことができ、目的であった理想の結婚というものをある意味叶えてはいる。ナオミからすると自分の虜で金を出してくれて、自分の要望通りに動いてくれる。このように考えると、二人からするとハッピーエンドかもしれない。様々な視点から読むとより楽しめる作品である。

    耽美主義である谷崎潤一郎が書いたこの作品。最終的に駄目な女性に振り回されるという谷崎節が炸裂していて耽美系や情緒的なものが好きな方におすすめしたい。

  • この小説の著書である谷崎潤一郎は明治末期から第二次世界大戦後の昭和中期まで、戦中・戦後の一時期を除き終生旺盛な執筆活動を続け、国内外でその作品の芸術性が高い評価を得た小説家である。彼の作品は女性の美しさを主張する男性が主役になっている作品が多く、話の内容も官能的なものやマゾヒズムな要素を含むものが多い。この「痴人の愛」もその作品のうちのひとつである。
    この物語は、震災前の東京も横浜を舞台にしている。この時代は西洋文化の影響を受けた流行りの最先端をゆく若者が街に進出した時代である。
    主人公の私(河合譲治)がカフェで働いていたナオミという西洋的なタイプの美少女を引き取り、自分の理想の女性に育て上げるべく彼女に全てを注ぎ込むが、わがままを許され性的に奔放な娘へ変貌するナオミに失望しながら、その魔性に溺れて人生を捧げる譲治の、狂おしい愛の記録である。そんなナオミの何事にも縛られず、自分の思うがままに振る舞う魔性の女という特徴から「ナオミズム」という言葉を生み出した。
    そんなナオミのような女性に対し、「イライラする」「めんどくさい」と思う人も少なくないだろう。だが、私はナオミという女性にとても憧れを持った。最近では恋人のことを考えすぎてしまったり、更にはどんなに雑な扱いや酷いことをされても愛ゆえに許してしまうなどといった、恋人に対しての依存状態に悩んでいる、いわば「メンヘラ」と呼ばれる女性が多いように思える。
    けれどナオミは自分の美しさを自覚し、どんなに好き勝手な行動や言動をしても譲治は絶対に自分を手離さないという確信を持ち、自分を支配しようとする譲治と立場を逆転させ、更には依存をさせる立場になったのだ。自分の美しさに絶対的な自信を持ち、男性を振り回すことができる女性はどれほど存在するのだろうか。たしかにナオミは天性の性悪女と言っても過言ではないが、彼女のように強い自信を持ち、わがままに生きている女性に強い憧れを持った。
    また、そんなナオミを愛し、何をされても許してしまう譲治はマゾヒストと言えるだろう。マゾヒストの男性は男性らしくないと思う人もいるだろうが、サラリーマンとして働いている譲治にとって社会の中で男らしく振るわうことは必要不可欠である。そんな中でナオミは譲治にとって、自分の弱さや情けないところを見せられる特別な存在なのだろうと感じた。「痴人」とは愚かな者、理性がない者という意味だ。この物語での2人の愛の形はとても偏ったものだが、これが2人の幸せだというのなら愛の形はどんなものでも良いのだと感じた。

  • 我儘を許され性的にも奔放な娘へ変貌するナオミに失望しながらも、その魔性に溺れて人生を捧げる主人公の狂おしい愛の記録。私たちが現代の価値観をもってしてもなお「狂気」を感じる作品である。

  • 本作品は関東大震災の翌年の1924年から連載され、翌1925年に書籍として出版された。ヒロインであるナオミの自由奔放で小悪魔的な性格から、この様な女性を「ナオミズム」と呼ぶほどに当時から人気かつ影響力のある作品である。
    主人公の河合譲治とナオミの恋愛と結婚を描写した作品である。河合はナオミの不貞行為に振り回されながらも結婚生活を続け、しまいには彼女の不倫すら甘受するようになる。また、作中に河合のマゾヒズムが描写されている。人間味があり官能的な作品である。
    理性だけでは抑え切れない人間の欲望や堕落さを味わえるわたしの大好きな作品です。

  • 誰かの美しさに狂おしいほど陶酔したことはあるだろうか。『痴人の愛』は、一人の女性の美に溺れていく一人の男の物語である。

    『痴人の愛』は文豪、谷崎潤一郎によって書かれた長編小説である。谷崎の作品は女性崇拝の思想が要となっているものが多い。この作品もその一つである。

    主人公の河合譲治は、浅草の雷門近くにあるカフェエ・ダイヤモンドという店の給仕女である十五歳の少女ナオミに目をつけ、彼女を引き取り理想の女に育て上げようとした。同居後の彼女の生活は贅を尽くし、またやがて複数の男性と関係を持ち、不義密通を繰り返していくこととなる。そんなナオミに呆れ、激怒することがありつつも、彼女の美や魔性に翻弄され彼女に溺れていく。ナオミの美と魔性、それに陶酔していく譲治を描いた耽美主義小説である。

    譲治の自分のなにもかもを犠牲にしてまでナオミに酔いしれていく姿。ここまでして一人の女性に執着していく様子は恐らく普通ではないだろう。しかし、譲治はもとよりナオミの美に憑りつかれており、また、その彼女を引き取りこの数年育て上げてきたのは誰でもない譲治自身なのである。そのため、ナオミは自分が育ててきたのだという執着心や、さらにそれに付随してナオミに対する所有欲も感じられる。かけてきた時間の分だけより強い執着的な愛が譲治の中に生まれていったとも言えるのではないだろうか。ナオミの妖艶な美しさや魔性とそれに対する譲治の狂おしいほどの愛。そんな耽美な世界にこちらも“陶酔”することができる、そんな作品である。

  • 生真面目なサラリーマンの河合譲治が、カフェで出会った美少女ナオミに一目惚れし、自分好みの女性に育て上げ妻にする。しかしナオミの回りにはいつも男友達が群がるが、それでも譲治は魅惑的なナオミに抱えきれないほどの愛を感じ、身を滅ぼしていく。

    私はこの物語を読んだとき一番に、人間の欲望深さやそれに対する嫌悪を感じた。しかし作者の谷崎潤一郎は、その人間の汚い部分を美しく表現しており、読み進めるほど感情移入してしまうような作品であった。

    ナオミは譲治を奴隷のように都合良く扱っているのにもかかわらず、譲治はそれでもナオミに対する愛をすべて捧げようとする。

    ナオミは最後なぜ譲治のもとに戻ったのか。多くの男友達をもつナオミなら、もっとお金持ちだったりハンサムだったりなんでも自由にさせてくれる男は探せばいくらでもいただろうし、探さなくても妖艶な雰囲気を漂わせるナオミには寄ってきたはずだ。現にナオミには、譲治と別れる前から多くの男たちがいた。

    それなのに、すんなりでなくともナオミは譲治のもとに戻ってきて、ついに譲治とナオミは、再び夫婦という形をとりながら好き勝手に生きることの出来る人生を手にいれた。

    ナオミにとって、お金持ちでもハンサムでもない譲治がなぜ良かったのか。

    私は、ナオミだけに跪き陶酔し脱落していく譲治だからこそ、彼が選ばれたのではないかと思った。彼こそ、ナオミの魅力を引き立て、ナオミに満足感を与えてくれるモノなのだ。

    これも愛と呼ぶのだろうか。読み終わった後もしばらく、様々な愛の形について、人間の醜い場面について深々と考えられる作品であった。

  • 「痴人の愛」は、谷崎潤一郎の作品。真面目な主人公、河合譲治はカフェの女給であったナオミという女性に出会った。譲治はナオミを育て、一人前のレディーにし、お互い良い時期に好き合っていたら妻にしようと考えナオミを引き取った。いざ引き取って育てようと思うと想像とは違ったものの、ナオミのわがままを断ることができず、気づくとなんでも許してしまう。ついには男遊びまでも許し、ナオミの奴隷として生きている、という話だ。「ナオミズム」という言葉を生み出した作品でもある。

    私はナオミのように、自由奔放で男を侍らせて生きているような女性は現代では一定数いると思う。当時ナオミのような男は許されたが、ナオミのような女は許されなかったのだろう。現代でもいまだにその価値観が残っていると感じるが、当時よりはナオミのような女性への風当たりは、「女性」なのに、という観点からは批判されにくくなったのではないかと感じる。

    ナオミのしている小悪魔的行為は、倫理的には決していいことではないのだと思う。実際主人公もナオミに魅了されながらも苦悩している。しかし、周りの男たちが納得している場合、倫理的価値観に基づいていたとしても、それは他者が批判してよいことなのだろうか。当事者でない我々がナオミの行為を、ナオミ自体を批判、断罪してよいものなのだろうか。個人の範囲、仲間内でする分には構わないし、意見交換はするべきだと思うが、現代のいわゆる文春、ニュースなどのような媒体で取り上げ、社会的にお茶の間で批判されるべきことなのだろうか。現代はこのような問題が少なからず存在しているように思う。一度この作品を通して、ナオミとその周りの男たち、ナオミズムについて考えてほしいと思う。

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著者プロフィール

1886年(明治19年)〜1965年(昭和40年)。東京・日本橋生まれ。明治末期から昭和中期まで、戦中・戦後の一時期を除き執筆活動を続け、国内外でその作品の芸術性が高い評価を得た。主な作品に「刺青」「痴人の愛」「春琴抄」「細雪」など、傑作を多く残している。

「2024年 『谷崎潤一郎 大活字本シリーズ 全巻セット』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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