貧富幸不幸 [青空文庫]

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  • 青空文庫
  • 新字新仮名
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  • この作品は作者の貧富と幸不幸のかかわりについての考えを、いくつかの例を挙げながら述べていく作品です。軸となる作者の考えは貧しいことと不幸なこと、富んでいることと幸福なことは必ずしも結び付くことではないというもので、この考えを中心に話が進んでいきます。
    作品内で挙げられた例の中で、作者の考えを理解するのに私が一番参考になったのは食べ物の好みの例です。例えば、甘いものが好きな人は多いが嫌いな人もいる、苦いのが嫌いな人は多いが好きな人もいるというようなものです。私自身甘いものが好きなので、嫌いな人がいるということはわかっていても、甘いものはおいしいという考えは昔からあります。貧富についても同じで、人によって何を貧しいとし、何を富んでいるとするのかは違いがあり、また幸不幸についても、何を幸福とし、何を不幸とするのかは違います。考え方や感じ方ひとつで同じものでも意見が180度違ってくるという例は、人間の主観によって判断されることの多い貧富と幸不幸に対する考えを理解する上でとても参考になりました。
    貧しいことは不幸であるという強迫観念を多くの人が持っているというようなことも書かれていました。大なり小なり固定観念を持っている私たちにとって、多少貧しいことの想像に違いはあれど、自分にとって不幸に当たることを想像する人が多いと思います。私自身、貧しいことが不幸なことではないと理解したつもりでいましたが、貧しいことを想像したとき自分にとって幸福である想像ができません。おそらくこれも貧しいことは不幸であるという考えを私が根底に持ってしまっていることが関係しているのだと思います。
    この作品は私にとって自分の考え方を見直すきっかけになりました。自分が当たり前だと思っていることも、ほかの人の考えによって見方や考え方が変わることがあります。新しい考え方を取り入れるという意味でも、考えを見直すという意味でも何か新しい発見をすることのできる作品だと思います。

  • この作品は、貧乏なら不幸福、裕福なら幸福という固定観念を題材にし、人々がそう考える心理状況や貧乏ならどのように不幸福を感じるのかなどを論じている。
    この作品の中に、貧しい人々が自殺を図るのは経済的に苦しいからではなく、貧しいことは不幸であるという強迫観念が彼らを自殺へと追い込んでいると書かれている。これは約100年前の1923年に出版された本であるが、この考えは現代にも通づるものがある。なぜならたくさんのものに溢れる現代社会では、自分にないものばかりに目が行き、コンプレックスが増え、自分を苦しめているからだ。自分には人より物がないという状況が不幸である、という考えは今でも多くの人が持っている。そしてその足りないものを埋めるために、幸福を感じることができない仕事でも必死に働き、いつまでたっても本当の幸せを得ることができない状況にあるのだ。このようなことを気づかせてくれる作品である。

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著者プロフィール

1867年(慶応3年)~1947年(昭和22年)。小説家。江戸下谷生まれ。別号に蝸牛庵ほかがある。東京府立第一中学校(現・日比谷高校)、東京英学校(現・青山学院大学)を中途退学。のちに逓信省の電信修義学校を卒業し、電信技手として北海道へ赴任するが、文学に目覚めて帰京、文筆を始める。1889年、「露団々」が山田美妙に評価され、「風流仏」「五重塔」などで小説家としての地位を確立、尾崎紅葉とともに「紅露時代」を築く。漢文学、日本古典に通じ、多くの随筆や史伝、古典研究を残す。京都帝国大学で国文学を講じ、のちに文学博士号を授与される。37年、第一回文化勲章を受章。

「2019年 『珍饌会 露伴の食』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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