素晴らしい作品だった。
敗戦により身分も地位も財産も失った78歳の気難しい(元)伯爵、その伯爵に仕える甲斐甲斐しい少女。
面というタイトルは一体どこから来るのだろうと思って読み続けていたら、最後の方で、あっ!と気付かされた。
時代設定、元伯爵の気難しい性格の描写、少女の奉仕。物語の序盤の積み重ね、伏線、そしてクライマックスへ。とても練に練られた素晴らしい作品だと感じた。
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それにしてもひどい老人(元伯爵)だ。
敗戦により身分も地位も財産も失い、時代の変化についていけない、いや、ついていきたくない78歳。
そんな元伯爵の心の拠り所が、敗戦後も以前と同じように仕えてくれる、屋敷に奉公に来ている少女だった。
この少女は表情をいつも変えない。夜伽のときでもだ。でもそういう少女なんだと元伯爵は思っていた。
ある時元伯爵は、この少女が同じ屋敷に住まわせてやっており肺を患っている若い男性と逢瀬を重ねていることを知ってしまう。そして嫉妬心から若い男を屋敷から追い出してしまう。
すると思いがけず少女の姿も見えなくなった。少女が身投げし、若い男と心中したことがすぐに分かった。
元伯爵は、ふん、と強がりを見せながら、一応顔を見るために顔伏せの白い布をめくったら。。。
なんとそこには今まで見たことのない恍惚な表情をした少女の顔があるではないか。
初めて見る表情。自分には今まで一度も見せたことのない表情。悔しさから、死んで面を脱ぐやつがあるか、と元伯爵は強がりを言う。
そしてはっと気づく。
若い男と逢瀬を重ねていたのだから、自分の前で無表情だったのは常に面をかぶっていたからではないか。そして若い男の前では面を脱いでいたのではと。
それでも強がる老人の痛々しさったら目も当てられない。。。
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少女が身を投げたのは、元伯爵の身勝手な嫉妬が原因。
少女が身を投げてから、敗戦前の偉大な自分を感じさせてくれる者は完全にいなくなった。
少女がいなくなってから、元伯爵は嫌でも現実と向き合わなければならなくなった。
自業自得だ。
元伯爵は、戦犯の嫌疑は晴れたかもしれない。でも、これから死ぬまで自分の犯した罪に苛まされていくに違いない。いや、苦しんでほしい。若い前途ある若者たちの命を身勝手な思いから奪ってしまったのだから。