編集者は常に企画のネタと著者を探しています。
テレビ、新聞、外部からの持ちこみ、人々の会話の中にと、企画の種は日常生活のいたるところに眠っています。
PHP研究所の太田智一さんは企画のネタ探しのため、特にネットを活用しています。『ドアラのひみつ』では、本を制作するずいぶん前から、ネットで人気があがっていたドアラの存在に注目されていたそうです。
「本当に現場とか現地で支持されているものっていうのは、テレビや新聞などのメディアの陰に隠れたところにいるんじゃないかと。特にネット上にはそういう存在があるんじゃないかと。と考えるようになったんです。その考察と検証としての「ドアラ企画」がありました。」(太田氏談)
このようにネットに潜んでいたドアラが太田さんによって着目されて、本となり、より多くの人に知られることになったのですね。
タコスタジオの岡部敬史さんはネットの中でも特にブログを有効活用されています。『日本の「食」は安すぎる』(講談社)の著者である山本謙治さんもブログを通じて見つけられました。
「ブログの出現によって、まだ「著者」にはなっていない原石とつながる手だてが増えたわけで、これは編集者にとってはとても意義深いツールだと思います。」(岡部氏談)
ブログで面白い情報を発信している方は、編集者から執筆のオファーがくるなんてことも夢じゃない時代なんですね。
ブログの他にもツイッターを活用して企画を見つけている編集者も少なからずいるようです。ネットが企画ネタ探しの主力ツールになりつつあるのかもしれません。
企画が決まったあとは、著者に原稿を書いてもらいます。
本のコンセプトを編集者と著者でよく話し合い、二人三脚で原稿を練り上げていきます。
進行管理でのポイントはスケジューリングです。多忙な著者の方は期日までに原稿が書けないこともしばしば。
そこでPHP研究所の横田紀彦さんはこんなワザを使っています。
「原稿の執筆が遅れる理由はただひとつで、切羽詰まった状況が著者に伝わっていないからだと思います。……ではその「切羽詰まった感」を、相手にどう伝えるのかというと、私は根が正直でうまくウソがつけないから、自分も切羽詰まることにしています。締切を勝手に早めてしまうのです。スケジュール帳にも架空の締切しか書かない。そうすればうまく回せます。」(横田氏談)
なるほど。そうすれば直前で慌てることはありませんね。確実なスケジューリング術ですね。
スカイライターの川辺秀美さんは執筆中の著者へディレクションが大切だとおっしゃっています。
「ディレクションっていうのは目に見えない作業なんです。著者のモチベーションを上げたり、脱稿までにその方向付けをきちっとやることだと思うんですよ。そこで適切なアドバイスを出せば、適切な原稿が返ってくるはずなんです。」(川辺氏談)
なるほど。執筆中に著者としっかりとコミュニケーションをとることでいい原稿へ育てていくようです。
その後、必要に応じて原稿に赤字を入れ、改善点などアイディアを提案していくことで、原稿をさらに磨いていくのです。
本のタイトル、帯の文言。人を引きつけるコピーを生み出すために、編集者は試行錯誤します。編集者とはまさしくコピーライターなのです。
クロスメディア・パブリッシングの小早川幸一郎さん曰く、「テンションが高い本」が売れているといいます。
『20代、お金と仕事について今こそ真剣に考えないとヤバイですよ!』ではテンションをあげるために、コピーでこんな工夫をされたそうです。
「タイトルについて社内で意見交換をして、「ヤバイ」という言葉は危機感があっていいんじゃないか、という案が出ました。そして「今こそ真剣に」を追加して、帯に数字もがんがん入れました。」(小早川氏談)
すごく勢いを感じさせるタイトルですよね。
ダイヤモンド社の加藤貞顕さんは、タイトルは「意外性」がポイントだと話されています。
「『スタバではグランデを買え!』というタイトルも、うまく意外性が出せたと思います。普通、スターバックスでは、グランデという大きいサイズを注文する人はあまりいないので、「常識の逆」を言っていて目を引くことができます。もちろん、それだけではただの不親切になるので、どういった本なのかをきちんと「価格と生活の経済学」というサブタイトルで説明しています。意外性と本筋の説明がカバーの中に収められていることがポイントですね。」(加藤氏談)
どうしてグランデを買うといいの? 何が書かれているんだろう? と思わず手にとりたくなる、絶妙なタイトルですね。
三笠書房の清水篤史さんは『たった3秒のパソコン仕事術』で「親しみやすさと即効性」に重点をおいて、タイトル、サブタイトル、帯コピーを考えたそうです。
「この本を買う人はパソコンが苦手な人が多いと思うんですよ。タイトルで「パソコン」という文字を見ただけで、腰が引けるということもあるはずです。
だから『この「ワザ1つ」で別人!』という、パソコンが苦手な人でも安心できるような文言を、あえて表紙にもってきました。
帯にも「この本はどうしてこんなに結果が出るの?」「とても簡単だからです!」という即効性を謳ったコピーを入れました。シンプルな表現を使ったことで、読者に親しみやすさも感じていただけると思います。」(清水氏談)
確かに、パソコンが苦手な人がついすがりたくなるようなコピーですね。
ダイヤモンド社の加藤さんは1冊につき、最低でも100個はタイトル案を出すそうです。社内で「タイトル会議」を行う出版社もあるそうです。 タイトルとは本の看板となる大切なもので、編集者が多く力を注ぐものなのですね。
タイトルと同様、重要な役割をしめているのが、カバーデザイン。
ディスカヴァー・トゥエンティワンの千葉正幸さんは、本の世界観に合った装丁することが大切と考えられています。
「カバーや帯がどんな顔をしているのか、つまりは表1(ディスプレイされるとき、正面にくる部分)が通りすがりのお客さんにどれだけの世界観を語りかけることができるのかが、すごく大切になってくると思うんです。……装丁がどうなるかは、デザイナーを誰にするかで7割がた決まってくるんじゃないかと、勝手に思っています。」(千葉氏談)
装丁家の選定も慎重に行われるようです。ただ単に、売れっ子の装丁家に頼めばいいわけではなく、本の雰囲気に合う人にお願いすることがポイントのようです。
また、「書店の棚に並んだときにどう見えるか」ということを、徹底的に考えられるようです。目の前の本だけでなく、周りにどんな本が並ぶのかと、売り場をイメージして作ることもポイントなのですね。
本が完成したところで編集者の仕事が終るわけではありません。
売れっ子の編集者たちはいかにその本をヒットさせるか、著者も含めてプロモーション活動にも積極的に力を注ぎます。
ダイヤモンド社の寺田庸二さんから勝間和代さん著『効率が10倍アップする 新・知的生産術』での印象的なエピソードをうかがいました。
「発売日の1日前に勝間さんから営業部に感動的なメールが送られてきたのです。その1通のメールが社内を変えました。……自己紹介から始まり、この本が作られた経緯、僕と勝間さんとの間でどんなことがあったか、などが書いてありました。営業のみんなと本当に一緒になって売っていきたい! という熱い気持ちにあふれていたので、営業の心に火をつけたのです。」(寺田氏談)
このように、制作側の思いを伝えることでチーム全体の結束が堅くなるのですね。
編集者がリーダーとなって社内が一丸となり、オンライン書店の書籍紹介文を書く、POPなどの宣伝グッズを作る、営業部とつながりを持って書店でも目立つところに置いてもらうなど、地道な宣伝活動を行うことで、本が広く知られ、多くの人の手に渡っていくのです。
このように、編集者は手塩にかけて一冊の本作り上げます。上記のステップを一人でこなすためには、インプット力、企画力、コピー力、時間管理力、コミュニケーション力、分析力、など総合的な仕事力が必要なのです。
そしてなにより、編集者のみなさんは本作りをとても楽しんでいるようです。
そんな「楽しみ力」が一番のヒット作への原動力につながっているのかもしれません。
編集者の哲学、仕事術についてもっと詳しく知りたい!という方は『スゴ編。』を是非ご覧になってくださいね!
『スゴ編。』の内容なぜ彼らが作る本は売れるのか? 『女性の品格』(坂東眞理子著)、『スタバではグランデを買え!』(吉本佳生著)などのベストセラーを手掛けたすごい編集者(スゴ編)へのインタビューをまとめた本。大ヒット企画が生まれた舞台裏を探るとともに、企画をどのように立てるのか、仕事の段取りをどうするのかなど、ビジネスマンにも応用できるスキルを紹介します。 |