個人の生活、プライバシーがすべてガラス張りの建物によって可視化された近未来のフランスの話。すべてをさらけ出すことと引き換えに犯罪は激減したが、透明化した富裕地区である日一家三人が忽然と消える。犯罪が減り、警察官から「安全管理人」となったエレーヌという女性の視点で、一家失踪の謎を追っていく。
家やあらゆる建物がガラス製。市民はお互い何も隠し事をせず、安全のため互いに監視することが当たり前の社会。
何より平和と安全を優先した結果の町で起きるはずのない事件が不穏な匂いを漂わせ、行き過ぎた透明性への疑問が滲み出す。
理不尽な暴力や犯罪をなくしたい。その思いは間違っていないし、安全に暮らせる社会を実現は多くの人が望むものだろう。だけどそのためにプライバシーをすべて犠牲にすることを自発的に選んだという設定が恐ろしい。少なくとも自分はガラス張りの家に住みたいと思わない。
でも確かに現代のSNSだってプライバシーの公表で、それをみんな自発的にやっている。それが近未来でガラス越しのリアル広告という形をとるのも時間の問題なのかも…
犯罪のない社会は一見ユートピアだ。だけどそのために犠牲となるものがあまりに多く、透明でクリーンな社会も決して生きやすくはないと教えてくれる。正義は必ずしも人を救わないし、他人の視線が常につきまとうことで正しく生きられるとも限らない。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
SF
- 感想投稿日 : 2024年12月17日
- 読了日 : 2024年12月18日
- 本棚登録日 : 2024年12月5日
みんなの感想をみる