Thinking, Fast and Slow

著者 :
  • Penguin (2012年5月10日発売)
3.93
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本棚登録 : 256
感想 : 13
4

行動経済学のベストセラー。著者ダニエルカーネマンは2002年ノーベル経済学賞。
古典的な経済学は人の合理的判断を前提としているが、本書では実際の人の判断が合理性を欠く場面を列挙し、法則性を導こうと試みている。具体的には、研究データをもとにヒューリスティクスやバイアスの影響を観察している。著者の功績は経済学の分野では非常に大きく、経済学が実社会へ一歩近づいたという観がある。

個人的に気に入った点は、Sytem1とSystem2という区別である。System2が広範な情報収集と解析から導かれる合理的な意思決定であり、大きな労力を要するのに対し、System1はいわば思考のショートカットで、意思決定の正確性があまり問題にならないときに精度を犠牲にして限られた情報から瞬間的な判断を可能にする。大衆の行動を観察していると合理性を欠く場面は多く見受けられるが、著者はこれを"合理性の欠如"と表現するのではなく"合理性とは異なる別のシステムを用いて判断している"と解釈する。これは非常に的確な指摘だと感じた。人は"頭が悪い"から非合理な選択をしているのではなく、よく考える必要がないから"賢く労力を節約して"選択をしているのである。

一方で、本書ではほとんど触れられていなかったが、System1とSystem2への依存の程度、およびSystem2に頼ったときの判断の合理性に関しては大きく個人差があると感じる。特に、日常的にSystem2を行使している種類の人はSystem2による合理的判断の能力が向上するため、高い合理性をもって判断することが可能になる。データにおける偏りから集団全体について議論するのみでなく、こういった個人差についての議論も興味深いものになるであろう。

さらに議論を発展させると、合理的判断をより理想的な意思決定であると考える人が多いようであるが、それは本当にそうであろうか。合理的な判断は再現性の観点で直感的な判断に優るが、それはすなわち同じ状況では誰でも同じ意思決定をするということを意味し、独自性の欠如、ひいては多様性の実現の阻害となるように感じられる。このような価値判断は本書では述べられていない。しかし、イーロンマスクが出資するNeuralinkでは脳内埋め込みチップの研究を進めており、さらに技術が進歩すれば合理性のみを補強するということも可能になると推測される。はたしてそれは理想なのか、「理想的なテクノロジーの活用とはなにか」という観点で議論を進めていくことも必要かもしれない。


最後に本書であまり気に入らなかった点。とにかく長い。個人的研究体験をもとにしたやや随筆調で書かれており、情報密度が薄い。個人的にはもう少し情報を圧縮したタイプの書籍を好むため、やや退屈であった。行動経済学関連の多くの書籍は本書の解釈本に過ぎないため本書を読むことには大きな価値があることには違いはないが、万人に勧められるタイプではないかもしれないと感じた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年11月16日
読了日 : 2020年11月16日
本棚登録日 : 2020年11月16日

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