今年読んだなかでもっとも印象的で刺激的。
イスラム過激派の研究を通して「いかに普通の人が過激化していくのか」を解き明かしていく。
これは遠い異国の硝煙にまみれた戦場の話ではない。「一般人」を自認する我々全てが過激化する可能性を秘めている。
アメリカの大統領選からジェンダー間の軋轢、果ては「お箸の持ち方」まで、現代は正義と正義のぶつかり合い。味方か敵かの二元論ばかり。Twitter初期には落語の長屋のような関係だったTLは、今や肥大し辻斬り御免のスターリングラードに。
最近のこの世相はなかなかしんどくて、世の中は「白黒ハッキリバッサリ切るひと」が威勢がよい。
“外的なストレスを受けると、ひとは衝動的に世界を内側と外側に分ける。つまり敵と味方”
“そして味方を称賛し敵を蔑める物語(ナラディブ)を語る”
本文中でも言及されているが、これはヘイトスピーチへ繋がり、そして歴史を自分に都合の良い神話として利用しようとするプロセスそのものだ。
最も秀悦な点は過激化のプロセスを「バランスシート」で表していること。
人はストレスを受けると、その負債を補うために資産を利用する。通常、その資産は家族愛、コミュニティの関係であったりするが、これらのリソースが枯渇している場合、人は負債を補うために負の資産を消費する。それはドラックであったり暴力であったり、また神話として作られた物語であったり。それらをドーピングのように使って自尊心をブーストするのだ。
今の社会のこうした息苦しさを感じているひと、孤独を感じているひと、家族が悩んでいるひとは是非本書を読んで欲しい。
繰り返しけどこれはエキセントリックな思想を持った少数の例外の物語ではない。我々すべてに当てはまる写し鏡であり、そして今の世界は急速に過激化の方向に閉じつつある。
その隙間から久しぶりに空を見たような読後感。
- 感想投稿日 : 2020年12月13日
- 読了日 : 2020年12月13日
- 本棚登録日 : 2020年12月13日
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