先日読んだ「妻の女友達」と本書とでは、同じ著者の短編集ながらも、収録作が発表された時期にはおよそ二十年ほどの隔たりがあり、各々から感じ取れる趣の違いに、小池真理子の作家としての変遷が窺える。エンタメ的要素の強い前者と異なり、小池文学の一端を成す後者には謂わばオチが用意されておらず、フランスやイタリアの映画でしばしば目にするいささか唐突にも思えるエンドマークを持って幕が下ろされる。そのためか、話によって物足らなさを感じてしまうのは否めないが、私たちの人生自体がハリウッド映画に見られがちなご都合主義のようなわけにいかないことを考えれば、この漠とした結びもそれはそれでまた良い
なかでも、父とよく似た愛人のもとへ定期的に通う娘の姿を、両親のあいだで起きた過去の経緯を交えて描いた「父の手、父の声」は、ラストを含めて、全体の流れが素晴らしく、秀逸な一編だ
(中公文庫版「紙の本」で読了)
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
日本文学「た」行
- 感想投稿日 : 2024年3月9日
- 読了日 : 2024年3月9日
- 本棚登録日 : 2024年3月7日
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