ひとなつの。 真夏に読みたい五つの物語 (角川文庫)

制作 : 角川文庫編集部 
  • KADOKAWA (2014年7月25日発売)
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感想 : 72
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アンソロジー、特に「夏」がテーマのものは中でも大好物なのだが、本書は予想以上によかった。個人的にはハズレなしどころか5篇どれも大当たり。柑橘系の果物にかぶりついたような爽やかさを感じる一方、甘さというよりは酸味というか苦味がなかなかに舌に残るな…という読後感でした。むしろそれがよいのですが。変に甘ったるいノスタルジーに走ることなく、若さゆえの逡巡をそのまんま、みっともないまま描写しているところに非常に好感が持てました。
・森見登美彦「郵便少年」実は森見さんの作風って苦手だったのだが、ちょっと理屈っぽいアオヤマくんのキャラクターがかわいらしい。郵便がテーマなのもまたよい。一見偏屈な老女との交流のエピソードも、心温まるものだった。「ペンギン・ハイウェイ」と関連する短編だど読後知りました、森見作品と今後ちゃんと向き合ってみようか。
・大島真寿美「フィルムの外」映画の撮影用に借りた家で過ごした、少年と少女のひと夏。その瞬間瞬間の、時間の切り取り方が抜群にうまい!大島さんらしい浮遊感のある描写で、瑞々しい世界観が印象的だった。
・椰月美智子「三泊四日のサマーツアー」一番繰り返し読んだかも。男子中学生を対象にした、沖縄の島でのミステリーツアー。やさぐれ気味に参加した哲太が、同じくツアー参加の少年達と友情を育んでいく過程に引き込まれる。沖縄の自然の描写もすごくいい。
・瀧羽麻子「真夏の動物園」中学校の修学旅行、なりゆきで京都の街を歩くこととなった教師と生徒。30代の男と10代の女子、それぞれ日々に倦んでいる二人の本音が交差する場面が印象的。瀧羽さんが描く京都の観光シーンはやっぱりわくわくするな~。
・藤谷治「ささくれ紀行」まだ国鉄だった頃、二浪し、バイトも辞め、くすぶっている「僕」は青春18きっぷであてのない旅を始める。この「僕」の迷走っぷりが妙にリアルで、全くもって楽しそうではないけれど、無様にもがく姿に共感してしまう。松尾芭蕉の「おくのほそ道」を絡めてきたところが面白い。

登場する男子も女子も皆揃って不器用だけど、様々な思いを抱えながらも一皮むけただろうか。そんな夏をいくつも通り過ぎてきた身としては、あの頃の自分を重ねてしみじみとしてしまいました。若い世代は勿論、大人にもお薦め。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 夏休みの本
感想投稿日 : 2017年8月26日
読了日 : 2017年8月26日
本棚登録日 : 2017年8月6日

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