風の中のマリア (講談社文庫)

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本棚登録 : 5149
レビュー : 776
著者 :
メイプルマフィンさん 日本の作家   読み終わった 

「風の中のマリア」というタイトルのこの作品が、まさかオオスズメバチの生涯を描いた小説だとは思いもよらなかった。なかなかに思い切った試みだなとずっと気になっていた。ハチが主人公というと、どうしてもミツバチのマーヤやハッチ等が真っ先に思い浮かぶ。オオスズメバチの画像を検索してみたところ、あまりのいかつさにちょっとたじろいだ。本書を読むまでは、恐ろしく、忌むべき存在でしかなかったオオスズメバチに対する印象が、ガラリと変わった。
ワーカー(働きバチ)のマリアは、「疾風のマリア」の異名を持つ凄腕のハンター。幼い妹たちを養うため日々狩りに精を出すが、羽化直前の虫だろうと、他の虫の獲物だろうと、容赦なく命を奪う非情さに、「殺すことしか知らない残虐な戦士!」と虫たちから罵られることもしばしばだ。子孫を残すために雄と雌が出会い、産卵する。大半の虫がそんな生き方をする中、オオスズメバチのマリアは雌でありながら恋もせず卵も産まず、帝国の維持のために戦い続ける。そんな生き方を自問自答するマリア。それでもひたすらに命を燃やして戦うマリアの勇ましさは、人間の私から見ても惚れ惚れするほどかっこいい。
思いがけない雄バチとの出会い、少しずつ綻び始める帝国、次世代を育むための大規模な襲撃…後半の目まぐるしく凄絶な展開は、自然界では当たり前に起こっていることなのだろうが、その激しさには驚くばかりだ。非情だけれど、こうやって弱いものは淘汰されていくのだ…死にゆく虫たちの叫びが痛ましい。特にクライマックスのキイロスズメバチとの死闘シーンは、圧巻。アマゾネス達の命を賭した戦いは、攻める方も守る方もそれぞれに必死で、壮絶でありながら胸が熱くなる。
社会性昆虫の生活の緻密さがよくわかり、自然界に対し興味が湧くと同時に、自分の人生についても何だか考えさせられるような不思議なメッセージ性を持った小説だ。日々生きるか死ぬかのオオスズメバチのワーカーと、のらりくらりな人間の自分とを比べるなんてスケールが違いすぎる、共通項は「女」のみだけど…同じ「女」として、マリアに心底憧れ、そして彼女を尊敬する。
斬新だけど、間違いなく心に深く刻まれる一冊。自然ってすごいわ!!

レビュー投稿日
2013年9月7日
読了日
2013年9月7日
本棚登録日
2013年8月3日
3
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