日本児童文学の第一人者、石井桃子。彼女の翻訳と意識せずとも幼い頃から彼女の関わった絵本に触れ、大人になってからは敢えて石井さん翻訳の作品を好んで読んだ。「山のトムさん」も「幻の赤い実」も印象に残る作品だ。いつかちゃんと石井さんの足跡を辿りたいと思っていた矢先に出会った本書。生い立ちから児童文学との出会い、農業生活、留学、こども文庫設立、晩年に入ってからも旺盛な執筆活動…と、なかなかにドラマチックな人生は、豊富な写真、近しい人へのインタビューによりくっきり、鮮やかに伝えられている。改めて…パイオニアだなぁ、と。紆余曲折の歩みは苦労も絶えなかったに違いない。今になって知る事実がたくさんあった。「ピーターラビット」の翻訳に悩まされたということも。オリジナルが素晴らしい作品だからこそ、その魅力を確かに伝えるため、翻訳者として対峙する苦労は並大抵のものではなかったに違いない。
また、本書には珠玉の名言、多数。たくさん引用したいところだけど、中でも印象的だったのは、「かつてあったいいことは、どこかに生き続ける」かな。何事も順風満帆とはいかなくても、そう信じて進むことが大切なのだと。きっと石井さんの人生もそういうことの連続だったのだということが端々に窺える。彼女の軌跡をドラマ化して欲しいくらいである。
全著作リストは大変ありがたかった。未だに読めていない名作がまだまだある。真摯な姿勢で世に送り続けた作品たちを、いくつになっても読み続けたいと思うのだ。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
絵本・児童文学・YA
- 感想投稿日 : 2017年4月3日
- 読了日 : 2017年4月3日
- 本棚登録日 : 2017年3月20日
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