現代ドイツ: 統一後の知的軌跡 (岩波新書 新赤版 994)

著者 :
  • 岩波書店 (2006年2月21日発売)
3.62
  • (7)
  • (7)
  • (20)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 115
感想 : 14
5

これは興味のある人には相当お薦め本だと思います。統一以後のドイツの政治・社会的動向について、重層的に、一般人・政治家・学者の意見を分析的に掲載しながら、より昔の歴史を参照しつつ論点と問題点を整理しつつ、ここ約20年の歴史をネオナチ・移民排斥・ユーゴ内戦・湾岸戦争・EU統合など節目となる出来事を追いながらたどっている。勝手なイメージでドイツは手続き問題には厳格、という印象を持っていたのだけれど、案外そうでもないスットコドッコイなところがあるんだなあと思ったり、素っ頓狂な右翼よりもリベラルレフトの知的弛緩による転向の方が罪作りな場合があるということや、かといって、知的訓練を重ねてきた人でもそういう陥穽にはまってしまう難しさも理解できるし、それだけにハーバーマスはとても偉い人だなあということなど、著者の基本的な考え方について個人的にとても頷けるというところもあり、興味深く読んだ。

ただのメモ
● 西ドイツの国民は意見を表明する機会を与えられず、東ドイツの市民は、西から怒涛のように押し寄せる経済力にさらわれただけといった、事実上の併合は、やはり禍根を残すものだった。デモクラシーにふさわしい手続きを怠ったことが、政治的・文化的メンタリティに大きな障害を残すであろう、そして「何世代にもわたる重荷」(ハーバーマス)となるかもしれない、という識者たちの警告はあたってしまった。
● 高邁且つ深遠を自負する、ドイツ精神なるものの尊大で抑圧的な内実から、自分たちの世代はやっとの思いで抜け出したのだ、とハーバーマスは述べている。ドイツには元来神秘性を標榜し、神話的なもの、アルカイックなものの魅力から離れることができず、政治的・社会的現実を深い軽蔑のまなざしで見ながら、それが自分たちに有利に展開するとすぐにすり寄る、という思想的傾向があった。こうした伝統から抜け出ることができたのは、アメリカのプラグマティズムや、ロールズやドゥオーキンにまでつながる18世紀の理性法のおかげであり、また分析哲学やフランスの実証主義、そしてデュルケームからパーソンズまでの社会学的思考のおかげである。
● 社会学者、政治学者によるさまざまなメンタリティ調査によると、西ドイツの住民は60年代から90年代まで一貫して、低く見積もっても15%ほどがファシズム的な価値観の持ち主であったことである。フランクフルト社会研究所だけでなく、いくつかある有名な世論調査研究所の調査でもそうした数字が出ている。(中略)実は、一般的印象とは異なり後者(多少とも社会の合理化、近代化についていけた人々)の方が右翼的心情に染まりやすいというデータがたくさん出ている。
● 貴族主義的ラディカリズムの議論をするザフランスキーは、60年代後半には、ベルリン自由大学の学生自治会で急進左翼として鳴らしていた。社会科学の言語から文化形而上学のそれへの乗り換えが国家の擁護に帰着している。同じような知的経歴を辿った人は、日本にもいることを考えると、ここには知的退化のひとつのパターンがあるのかもしれない。

読書状況:未設定 公開設定:公開
カテゴリ: 欧州・政治経済社会
感想投稿日 : 2009年3月18日
本棚登録日 : 2009年3月18日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする