ねじまき鳥クロニクル〈第3部〉鳥刺し男編 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1997年9月30日発売)
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感想 : 896
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笠原メイの手紙の一部が記憶にこびりついていた。時間というのはABCDと順番に流れていくものじゃなくて、てきとうにあっちに行ったりこっちに来たりするもの。そうだそうだ、こうだったんだって後になってよみがえってくるものもある、と。
あとは「茶碗むしのもと」をレンジに入れて、茶碗むしができあがるのが当たり前だなんて思わないこと。中でいったんマカロニ・グラタンに変わっていて何食わぬ顔で茶碗むしに戻っているのかもしれないし、あるいは完璧なマカロニ・グラタンが出来上がるってこともあるんだ。そのほうがよほど現実的で、物事には一貫性を求めるべきではないのかもしれないと、そう思えた。何事においても。
(以前のレビュー読み返したらまったく同じこと書いてて笑った。)

そして間宮中尉の長い話のつづき。シベリア抑留で皮剥ぎボリスとの間にあったことのすべて。こんな強烈な話をちっとも覚えていなかったなんて、自分が信じられない。
唐突にはさまれる少年のエピソードは何なのだろう?と思ってちょっと調べたら、シナモンの幼少期のエピソードでは?という解釈があって腑に落ちた。動いている心臓は父親のもので、シナモンが言葉を失ってしまったのは物語の呪術的な力によるもの。

第2部から間が空いてしまいましたが、これでようやく読了。
3年ぶりでしたがまるで何も覚えてなくて我ながらびっくり。暴力的で主体的な物語でした。
(2018.11.8 再読)


色々ぐちゃまぜに詰め込まれた割には最後はなんだかあっけなかった。
彼の作品にしては本当に珍しく主人公が行動的で前向きで驚いた。
悪、というものをテーマにしたとても壮大な物語だった。
失踪した猫、バッド、枯れた井戸、湧き出た水、などなど何かを象徴するような物がたくさんでてきてとても心理学、哲学的な要素を感じた。

笠原メイの手紙には共感できるところが多かった。
茶碗むしのもとをレンジにかけたら、中で一度マカロニグラタンに変身しているかもしれない。私たちは茶碗むしのもとがそんなことになっているとはつゆほども思わずに茶碗蒸しを食べるのだ。
確かに一度マカロニグラタンくらいになっている方がほっとするかもしれない。
時間というのは順番に流れていくものじゃなくて、きっとてきとうにあっちに行ったりこっちに来たりするもの。
どこか異世界に小旅行していたような気分だった。ようやく私もこちら側に戻ってこれたという気分。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説(国内)
感想投稿日 : 2016年1月26日
読了日 : 2015年10月26日
本棚登録日 : 2015年10月26日

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