あこがれ

著者 :
  • 新潮社 (2015年10月21日発売)
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小学4年生の麦くんはちいさいときにお父さんを亡くしている。ママは占い師のような仕事をしているけれど、よくわからない。
麦くんのもっぱらの関心ごとは、近所のスーパーに入っているサンドイッチ屋さんではたらく、ミス・アイスサンドイッチだ。
彼の淡い恋心のようなものが愛おしかった。ミス・アイスサンドイッチを目の前にしているときの気持ちはふくざつだ。噛まないでぐっとのみこんだごはんが喉からゆっくり下へ降りていって、おおきなところへでる。そこはうさぎの耳みたいに素敵なところで、風にふわっとくるまれる。
会いたいときに、会いにいったほうがいいよ、と麦くんにアドバイスするヘガティーはもうすっかり大人のようだった。
「ミス・アイスサンドイッチ」


ヘガティーもちいさいときにお母さんを亡くしている。2人は小学6年生になっていて、そしてヘガティーはインターネットで昔お父さんが知らない誰かとも結婚していて一女をもうけていることを知ってしまった。
お父さんは映画評論家のような仕事をしているけれど、よくわからない。
お父さんが、ヘガティーの知らないところで知らないお父さんをやっていたのだ、という事実はたしかにショックだろう。今のお父さんが嘘のものだと思ってしまっても致し方ない。
まだ見ぬお姉ちゃんに会いに行きたい!という好奇心で決行した麦くんとの冒険。
それが崩折れてしまって、走るしか、泣くしかなくなってしまって、お母さんに会いたくなってしまったこと、手紙、すべてが苦しかった。可哀想で抱きしめてあげたかった。はやく大人にしてあげてほしい、おおきくて、なんでも一人でかいけつできるような大人に。
自分はこんなに悲しいけれど、世界はもっとずっとひろくていろんな人がいていろんな出来事が起きているんだと気づいたヘガティーは、でももう子供ではない。人間はみんな分子なのだ。アルパチーノ。
「苺ジャムから苺をひけば」

死んでしまうこと、まだ起こっていないけどいつか起こってしまうこと、夕焼けの色、今日のことを忘れないだろうなと思うこと、あこがれ。
麦くんとヘガティーといっしょに、かつては私にもたしかにあった記憶や風景を思い出していた。布団のなか、暗闇でひとりかんがえていたような。そうだ、私は私もしらない世界中のあらゆるものに「おやすみ」と声をかけてからでないと眠れない子供だった。
やわらかなイノセンスに久しぶりにふれることができました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2018年5月28日
読了日 : 2018年5月28日
本棚登録日 : 2018年5月28日

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