あなたが私を竹槍で突き殺す前に

  • 河出書房新社 (2020年3月23日発売)
3.50
  • (10)
  • (11)
  • (16)
  • (5)
  • (2)
本棚登録 : 322
感想 : 21
3

李龍徳さんの新刊。
自ら突き動かされるように執筆して出版社に持ち込んだのだそう。

初の女性総理が誕生した近代日本。彼女は嫌韓で、次から次に在日韓国人が不利となる制度が増えていく。
柏木太一は、そんな日本をどうにか変えようと同じく生きづらさを抱える在日仲間を見つけ、とある作戦を企てていた。

重たい一冊だった。私はこれまで在日韓国人のことなんて何一つ気にしたことがなかったんだと痛感した。同じ日本に暮らしているのに。

**
「いや、違う違う! そう、この世界を人体に喩えるなら、マジョリティは血液だ。そ、そしてあんたらマイノリティは、ときにワクチンであったり、ウイルスであったり。ひどいときには白血病みたいに暴走もするけど、でもでも、それも世界のルーティンのあるべき姿か。あんたたちは世界の流れを、その流動生を、ときどき騒がせる存在なんですよ、つまりは」

「普通選挙のために文字どおり血を流した、人生を捧げた彼女たちの存在を知りながら、投票所に行かないという選択をあなたがもしするならば、それはもうあなたに正義はないとはっきり言おう。サフラジェットの存在を知らなかったならば、ここまでこの文章を読んだあなたはもう無知の状態には戻れないのだから、必ず選挙に行きなさい。さもなければ、永遠に絶対にあなたは不正義だ」

(朴梨花からの手紙)
 苦労ばかりの旅路の果てに、私たちは安らぎを得られるのか。ああそうかとの大いなる精算を見いだすことができるのかどうか。温かいベッドは用意されてるか。ほとんど過激派なくらい無神論者である太一だけど、白髪のおじいちゃんになって長年のパートナーや子や、たくさんの孫たちに見送られて息をひきとったあと、その数分後に、皮肉なことに待っていた神さまに「もちろん、すべての者に、ふかふかのベッドは用意されてるよ」と言われる。その瞬間は、ものすごく美しいのではないか。
 太一よ、この世界の、息もたえだえに登りきった果てのその光景は、きっと美しい。共に信じよう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説(国内)
感想投稿日 : 2020年4月19日
読了日 : 2020年4月12日
本棚登録日 : 2020年4月12日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする