神曲 完全版

  • 河出書房新社 (2010年8月27日発売)
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感想 : 22

おそらくは聖書に次いであらゆる創作物に影響を与えている書物『神曲』。書かれたのは13世紀頃であり、聖書、神話、歴史、哲学、神学といった要素が百科全書的に物語に組み込まれている。お話は地獄に迷い込んだダンテくんが、古代ローマの詩人ウェルギリウスと出会い、天国を目指しながら異界巡りをするというもの。途中でベアトリーチェというダンテにとっての女神みたいな存在と再会し、最終的には「愛ってすばらしい!」という気づきを得るのでした。おしまい。
平川祐弘の訳は美しいですが、内容が内容だけに集中して読まないと何が起こっているのかわからなくなりがちです。でも大丈夫。この〔完全版〕はドレによる挿絵がついており、なんだか分からないけど壮大なビジュアルを絵で補完してくれます。その上で、それぞれの章の始めには訳者による概略が用意されているので、ここさえちゃんと読んでいれば何となくでついて行けるでしょう。また、章の終わりごとに細かく解説が載っているので、より深く知りたい、あるいは意味がわかんなかった、という方には理解の助けになると思います。まあそこまできっちりしっかり読まなくても、ファンタジー世界をお散歩する話を絵付きで読めるー、くらいの気持ちで読んだらいいんじゃないかな。
聖書の人物以外にも、実在の人物が多く登場し、中でも”ベアトリーチェ”という存在は作者ダンテの幼なじみで24歳の歳で亡くなった女性だったりします。イタリアの政争とフィレンツェ追放という彼の身に実際起きたことを反映した話でもあるので、個人的な怨恨という側面も見え隠れ。まあ創作の動機ってやっぱり「恋慕」だったり、「怒り」だったりが大きいんだろうな、と俗なことを感じました。
最後の「天国篇」は"キリスト教的価値観から見た宇宙"というすんごく壮大な光景の連続で、ドレの絵と相まって神秘的です。やんちゃな想像力を知識と筆力でひとつの物語にしちゃうあたり、全体の手触りとしては何となくピンチョンの『重力の虹』や、『ディファレンス・エンジン』なんかの手応えに近いなあとボンクラなSF好きとしては思うのでした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年8月25日
読了日 : 2023年8月25日
本棚登録日 : 2023年8月25日

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