嘔吐 新訳

  • 人文書院 (2010年7月20日発売)
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精一杯うんと背伸びして、アルベール・カミュの『異邦人』や、アンドレ・ブルトンの『ナジャ』や、ジャン・ジュネの『泥棒日記』や、ルイ・フェルディナン・セリーヌの『夜の果てへの旅』や、アラン・ロブ・グリエの『反復』や、トマス・ピンチョンの『V』や、ドナルド・バーセルミの『口に出せない習慣、不自然な行為』や、そしてこの本、ジャン・ポール・サルトルの『嘔吐』などなど、誰も見向きもしないから綺麗なままの本をほとんど独占して読むことが出来た中学から高校にかけて,それにしても各々の学校の図書館に何故あれほどまでに尖鋭な現代文学の本が、私を待っていたのでしょうか?

それはともかく、『嘔吐』は、カフカの影響を云々されていますが、骨の髄まで徹頭徹尾そのころ芥川龍之介に影響されていた私の文学観では、主人公ロカンタンの吐き気をもよおすこの嫌悪感は、まさに芥川龍之介のペシミズムに通じるものとして理解されたのでした。

実存的存在などこれっぽっちも知らなかった中学生には無理もないことでしたが、その後ひそかにサルトルに少なからず入れ込んでいくにつれ、たとえ今ではもう誰もその思想性に注目しようとはしない流行遅れのような過去の遺物のような扱いをされようとも、私にとっては、思想や哲学をただ思弁的なものとしてだけでなく、現実の社会とのかかわりの中で見出そうとして批判して闘った人として、また1901年から始まったノーベル賞をベトナムの革命家のレ・ドゥク・トとともに二人だけ辞退した反骨の人として、深く記憶に刻まれたのでした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文学(小説・詩歌・伝記・随筆・批評)
感想投稿日 : 2011年7月19日
読了日 : 2010年7月19日
本棚登録日 : 2011年7月19日

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