華栄の丘 (文春文庫 み 19-13)

著者 :
  • 文藝春秋 (2003年3月7日発売)
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感想 : 31
4

史実に基づいた小説…なの?
きちんと文献に当たり、資料を読み込むことで書かれたこの作品は、もちろんノンフィクションとは言えないのだろうけれど、まるで見てきたように描写される古代王国はもはやフィクションですらない。

難しい言葉、知らない風俗が次々と現れるのに、不思議と読みにくくない。
決してドラマチックな文章ではないのに、全く退屈しない。

曽祖父の専横がたたって、祖父、父と不遇をかこってきた華家。
知る人ぞ知る知恵と礼儀(信義)の人・華元を訪ねてきたのは宋の王の弟。
不義の王を弑して、自分が王になろうと思うのだが…。

自ら手を汚す者は決して善ではない。徳を積みながらチャンスを待て。
そしてチャンスをものにしたのが文公で、その時以来ずっと文公は華元を信頼し、華元は文公を盛り立ててきたのである。

大国晋と楚に挟まれた宋の立場は難しいものであるけれど、目先の利益などでは決して動かず、筋を通した華元の生涯。
筋は通すが手腕は柔軟。
ここが面白い。

解説によると、晋と楚を同盟させるということは、日本の首相が冷戦時代のアメリカとソ連の手を握らせたような大事業なんですって。

味方を怒らせ、敵の陣地に1人置き去りにされたり、王の立場を守るために人質になったり。
あれ?結構ドラマチックな生涯じゃない?
しかしひたすら粛々と物語は進むのです。
ドラマチックだからこそ、粛々と。

文公、王姫、華家の家宰、部下の士仲。
魅力的な人物もみな実在の人。
歴史ってやっぱり楽しいなあ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2016年10月18日
読了日 : 2016年10月18日
本棚登録日 : 2016年10月18日

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