デッドエンドの思い出 (文春文庫)

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心に傷を負った時、無理に治そうとするのではなく、見ないふりをするのではなく、ただ一緒に回復を待ってくれる人がいれば、どれだけ支えになるだろう。
この本は、そういう本。

とても透明で、すこぶる柔軟で、暖かい心を持った人がいる。
育ちがいい、というか、育てられ方がいい、というか、極めて自然に人のために動くことができる人がいる。
直接問題が解決するわけではなくても、その人がそばにいてくれたら、イケそうな気がしてくる自分がいる。

この本が人気なのは、そういうことなのではないかと思う。

作者は、出産を一か月後に控えて書いた表題作を「これが書けたので、小説家になってよかったと思いました。」とあとがきに書いているが、私は『「おかあさーん!」』を読んで、彼女が小説家になってくれてよかったと思った。
朝、仕事を始める直前まで読んでいたら、目が真っ赤になってしまって大変困ったけれども。

“おかげで私は、中途半端に体の具合が悪くなるということはどれほどたちの悪いことか、身をもって思い知った。ずっと微熱の続く風邪のようなもので、起きていられないわけでも、働けないわけでも、笑ったり泣いたりできないわけでもなかった。ただいつでも、だるくて、頭の中がしびれているような感じだった。だから、何をどうしたらいいなんて何にも考えられなかった。ただ、頭がはっきりするまでをしのいでいただけだったのだということもわかった。”(「おかあさーん!」)

そう。ただだるいだけ。気力がわかないだけ。
自分の心がどれほど小さく固く凝りかたまっているのか気がつかなかったころ、私もそう思っていた。
すぐ治るはず。大したことない。
でも、実は自分がものすごく我慢をしていたことに気づいたとき、少し息をすることが楽になった。
そんなことを思い出した。

“それは神と呼ぶにはあまりにもちっぽけな力しか持たないまなざしが、いつでもともちゃんを見ていた。熱い情も涙も応援もなかったが、ただ透明に、ともちゃんを見て、ともちゃんが何か大切なものをこつこつと貯金していくのをじっと見ていた。”(ともちゃんの幸せ)

見ていてくれるなら、それだけでいいと思う。
見ていてくれるなら。

作者の考える幸せの情景って、部屋でマンガを読むのび太とドラえもんなんですって。
なのでこの本は、藤子・F・不二雄先生に捧げられています。

レビュー投稿日
2015年1月28日
読了日
2015年1月28日
本棚登録日
2015年1月28日
4
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