つめたいよるに (新潮文庫)

3.59
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本棚登録 : 9788
レビュー : 987
著者 :
2111okustanさん 小説   読み終わった 

正直何が言いたいのか私には……と思っていたが、解説を読んだら、もう一読すれば非常に感動できそうな気になった。
解説を読む前にも漠然と「いい話だ~」とは思っていたが、さすが批評家の視点は素晴らしい。
だが、やはり初見(=自分の力のみ)で読んだ限りはそこまで面白いと感じることができなかったので、当時の自分に素直に☆3にしておいた。

『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』同様、短編のくせに登場人物ひとりひとりのリアリティがすさまじかった。
『泳ぐのに~』が女性の恋愛の話だったのに対し、今作は川本三郎氏曰く「幽霊、変身、転生」の話。
また、中身は『つめたいよるに』『温かなお皿』に大きく分かれている。

『つめたいよるに』
デューク:幽霊
犬好き必涙。あの短さであの量の伏線を回収するのはすごい。しかも(これも解説を読まないと気づかなかった辺りまだまだ読書量が足りないが)少年がデュークであるとは、どこにも書いていない。クリスマスの街の中に消えていくデューク。デュークは最高のサンタさんだった。「僕は、楽しかったよ」「私も」「……ずっと、だよ」とかいう会話があったが、自分の家の犬も、彼の”犬生”をずっと楽しんでくれているといいなぁ、と思ったら涙を禁じえなかった。

夏の少し前:変身
時間軸ぶれぶれで、主人公は彼女の人生を白昼夢のように体験していく。ひたすらに不思議な感じのお話。だれかこれで絵本書いてくれ。

僕はジャングルに住みたい(:どれでもない)
野村さんと、彼女と両片思いな感じの主人公くんの、小学校卒業直前のかわいらしいお話。野村さんがわざわざ頼んでくれたのに素直にメッセージを書けなくて、挙句下駄箱に突っ込まれていた彼女のノートに「おれたちに明日はない」、かわいすぎた。それを見た野村さんはにっこりしたらしいので、やはり女の子の方が精神年齢は上なのね。
主人公くんはジャングルに住めたら、彼女のために獲物をとってくるそう。人間のままだと優しくできないのかな。人目があると素直に優しくできない少年であった、ってとこでしょうか。

桃子:変身
処女作らしいです。すげえ。身寄りのない子ども・桃子と恋に落ちてしまった引受先の寺の僧。桃子と虫を殺生して遊んでいるとか、僧の様子がおかしくなっていくので、ボスの僧?が桃子を寺から伯父伯母のところへ出してしまうと、僧の頭からは青い花を咲かせる植物が……。しかも毎年春には小鳥が寺にやってくる。桃子、お前鳥だったんか。だからセミの羽根をむしって遊んでいたのだね。伏線の張り方など、デュークに通じるところがある。過ぎた愛は身を滅ぼすという教訓の話?

草之丞の話:幽霊
女手一つで育てられていたと思っていたら、実は幽霊の父さんがそばにいて、母はそれを知っていて、えー……という息子の話。最終的に少年は父から「もうお前ひとりで大丈夫だな、母さんを頼むぞ」みたいな感じで母を任される……。賞とったらしいけどあんまり良さがわからなかった。

鬼ばばあ(:どれでもない、死に近しくなる話)
これ好きだった。小学生の少年が老人施設のおばあさんと仲良くなるが、ある日おばあさんはぼけてしまって……という話。老人施設内でもいなかったかのようにふるまわれることに少年が違和感を覚えている描写など、子どもと大人の事情の違いというか、リアル。

夜の子どもたち(:どれでもない、強いて言うなら変身?)
これも好きだった。夕方まで子どもたちがやっている遊びを、実は夜中に彼らの親がやっている、という光景を目撃する少年の話。その光景は夢か現実か。しかし、その真偽は重要ではなく、少年が大人の中に残る「子ども」を知った、というのが重要。それを周囲の友人に打ち明けないのも、大人の秘密を知って、自分だけが少し大人に近づいたような優越感を覚えたからか。大人だって無邪気に遊びたい、そんな欲望を描いた作品だと解釈。

いつか、ずっと昔(:転生)
恋人の横にいながらふわふわ前世の恋人に会う旅を始めてしまう主人公さん。不思議な雰囲気が魅力的ではあったが、何が言いたいのかはよくわからなかった。頭が江國さんに追い付かない。

スイート・ラバーズ(:幽霊?転生?)
これも好きだった。結婚を間近に控えた主人公さんのおじいちゃんは、余命わずか。主人公は、亡き彼の妻――主人公のおばあちゃんによく似ている、と言われて育ってきた。それどころか、祖母が亡くなった翌日に生まれた彼女には、祖母の記憶を受け継いでいる節がある。
おじいちゃんが亡くなり、遺体のそばに行くと、彼女は自分の中から「出て行って」しまい、体をおいて、自分の意思の外で、おじいちゃんの亡霊とともに歩いていく。「夫婦はいいぞ」と。2人が病室から出ると主人公は主人公の中に戻る。婚約者と顔を合わせると、「おじいちゃんが亡くなって悲しかったからではなく、婚約者と会えてうれしかったから」泣いてしまった主人公。もはや祖母の存在を内に持たない彼女だが、祖父母と同様、「夫婦はいいぞ」、なんて、将来孫にでも言っているのではないか。


『温かなお皿』
朱塗りの三段重
犬に過保護だけどいい奥さんだけど、やっぱり過保護過ぎた奥さんの話。さすがの私(重度の犬好き)でもわからない。犬におせちは作らない。そして何が言いたかったんだこの話(n回目)。

ラプンツェルたち
女子大生4人組が厳しい寮生活を楽しんでいる。なんか共感できなかった、というかやかましかった。自分が自由で恋にそこまで溺れないタイプの女子大生だからか。

子供たちの晩餐
いい食事を作る母のもとで育った、4人兄弟の晩餐の話。父母が連れ立ってでかけた晩に、体に悪そうなものをお行儀悪くこっそり食べまくる。楽しそう。たまには羽目はずさないとね。たまの悪さで発散しながら、ある種抑圧された生活に戻っていく少年少女。
ただね、ごみが大量発生するだろうからね、ご両親は実は気づいてると思うよ。

晴れた空の下で
どの話か忘れた……。

さくらんぼパイ
離婚して娘の親権は妻がもっている、しかしある日娘から急に電話がかかってきて、行ってみると元妻は部屋にこもって泣いている。娘が自分の作ったさくらんぼパイを食べなかったからだという。えぇ……ガキかよ……。父は娘を外食に連れ出し、そのままその晩だけは娘を連れ帰ることに。娘曰く、母は毎日手作りのお菓子を作る――メインの食事は手作りでもないのに。去り際に父はさくらんぼパイを平らげ、「おいしかったよ」。元妻は車で去っていく2人をベランダから見送る。
女さんにいらついてよく読めませんでした、ちょっとよくわからない。

藤島さんの来る日
猫と飼い主の女の人とその恋人藤島さん(妻いる)の話。
吾輩は猫である、みたいな感じだった。かわいい。藤島さんに料理を作らせ、彼女は「わたしね、男の人に料理なんて作ってあげないんだ」。かならず帰ってくる人のために料理を作って待っているなんて、余裕のあるマネはしないようなことを言っていた。猫ちゃんは、でも、彼女の料理は好きらしい。猫の無邪気な視線から、男女関係の悲しさを描く。

緑色のギンガムクロス
違う父をもつ、アラフォーの姉と妹の話。そりは合わないけれど、男運がないもの同士ではある2人。最終的に打ち解けていらっしゃった。そんなに印象に残っていないので、よくわからなかったのでしょう。

南ヶ原団地A号棟
隣の芝は青い話。娘の体重を気にして健康食を出すお母さんは、厳しくていやになってしまうけれど、娘を太らせまいとする合理性を持っている。好きに食事をさせるお母さんは、母親らしくないけれど、自由でいい。料理に凝るお母さんは、「母親」らしくて素敵だけれど、そんなに凝ったものばかり出されても、みんながみんな食事に興味があるわけではないので、疲れてしまう。3人の子どもが3人の母親を評価していた。

ねぎを刻む
特にきっかけがなくても孤独に襲われる夜がある。そんな日には、ひたすらねぎを刻む、という女性の話。「孤独のつめたいてのひらに覆われる」みたいな表現があった、素敵すぎた。
あと急に病み期がくるのは本当にそう。きっかけなんてないのに、ひたすらにいろいろなことが嫌になる。

コスモスの咲く庭
お父さんの自由な昼間。最初は乗り気ではなかったが、この状況――娘息子に邪魔されず休日を謳歌するのが夢だったことを思い出す。昔の得意料理を作るために買い物に出かけ、ついでに元カノ御用達のヨーグルトを見つけてつい買っちゃったりなんかするけれど、お料理完成間近で帰ってきた妻と娘に現実に引き戻される。挙句ヨーグルトは娘に求められてあげてしまうし。過去には戻れませんよ、ってか。切ない。

冬の日、防衛庁にて
浮気相手の奥さんにコテンパンにされる話。優雅な専業主婦に、キャリアウーマンはかなわない。主婦っょぃ。

とくべつな早朝
クリスマスで始めて(デューク)クリスマスに締めにきたよこの人…!という感動を覚えた。大学生のコンビニアルバイターとその女友だちの、何かが始まりそうな朝のお話。

レビュー投稿日
2018年9月25日
読了日
2018年9月25日
本棚登録日
2018年9月20日
1
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