号泣する準備はできていた (新潮文庫)

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レビュー : 688
著者 :
2111okustanさん 小説   読み終わった 

難しい……! ちゃんと江國さんが書きたかったことが読み取れたか、甚だ不安。

「前進、もしくは前身のように思われるもの」
夫と、昔のホームステイ先の娘さんと、主人公・長坂弥生の話。
主人公の夫は、「名誉」のために妻の知人を家に泊めることを嫌がるが、主人公は娘さんアマンダを、当時のホームステイ先の奥さんのように受け入れることにする。
アマンダを空港に迎えに行くリムジンバスの中で、夫とのやりとりなんかを思い出すが、結局アマンダはボーイフレンドと一緒に現れ、「宿は別にとってありますから」。なんだか笑いだしそうになってしまう主人公であった。
当時の弥生と今の弥生は、ともに19歳だという。今や36歳の弥生は、「マスカラと口紅をくっきりつけた顔で」アマンダと対面する。昔は夫といれば何も怖くなかったのに、夫の「昔の女」から電話がかかってきたり、夫が、預かっていた夫の母の猫を捨ててしまったり……。弥生は言う、「あなたのことがわからないわ」。前進、もしくは前進と思われるものをしながら、そういうことを乗り越えてきた。そして最後に「すがすがしい、と思えるような心持ちで、弥生は空港をあとにする」。期待はずれなことをされつつも、なぜだかそう感じてしまう、人間心理があらわされている。

「じゃこじゃこのビスケット」
17歳の夏、初めて男の子とデートした主人公の話。「じゃこじゃこのビスケット」とは、主人公の母が考えた言葉で、家族があまり好きではないタイプのビスケットのこと。詰め合わせなんかに入っていると、最後まで残ってしまうような。
「問題児だった兄や優等生だった姉と違って、私は退屈な娘だった」。そんな主人公は、生肉屋の息子・河村寛人(と飼っている老犬のシナ)とドライブデートをする。若く、周囲の人間からの好意に敏感な主人公は、自称「じゃこじゃこのビスケット」。そんな彼女は、寛人とバテたシナとともに海にたどりつき、楽しくもない散歩に興じる。しかし、大人になった主人公がふと思い出すのは。そんな「何ひとつ、ちっとも愉快ではなかった」思い出――「やけに天気がよかったことと、自分が不機嫌な娘だったこと。精肉屋で働いていた河村寛人。紫の口紅。でたらめばかり信じる十七歳だったこと」なのだった。

「熱帯夜」
主人公千花と、その恋人秋美の、レズビアンのカップルの話。
千花曰く「私たち行き止まりにいる」のだが、秋美に言わせれば、そんなことを言う「千花ちゃんはばかね」。昔を振り返り千花が機嫌を直すと、2人は酔ったまま熱帯夜の街に繰り出し、2人で住むマンションへ。「マンションへ帰ったら、私たちはくっついて眠るだろう。たぶん今夜は性交はしない。ただぴったりくっついて眠るだろう。男も女も、犬も子供もいる世の中の片隅で」。
ひたすら2人が愛を語り合っている話だった印象で、嫌いではないが書いた目的がいまいちわからなかった。ただ最終段落の「世の中の片隅で」というのが、2人でいることはまたとないほどに幸せで、「フンダンに愛し」合っているにもかかわらず、世間には受け入れられにくい、という2人の関係性を象徴しているようで、切ないが美しい、と思った。

――

細かく書きすぎて夜も更けてしまったので、内容忘れたらまた読むといいと思います、題名とちょっとしたコメント(本来それを書くんだよ)だけ書いておくことにする。

――

「煙草配りガール」
これまた題名の意図が不明。頭いい人教えて。

「溝」
夫(主人公)の実家が無理な奥さんの話。確かに完全にソリが合わなそう。「生理的に無理」が離婚に結びついた話。

「こまつま」
「こまねずみのようにキビキビと働く妻」こと「こまつま」の主人公が、世間を見下しつつも、見下している世間様と同じようなこと(=店員から勧められてなんとなく気が向いて)昼から強い酒を入れてしまう話。イヤホンをしている若者はうらやんでも、くだらない話に興じるべつの主婦の組は見下している感じがクール。イキってる感は否めなかったが、それだけ誇りをもって主婦業をしている主人公だった。

「洋一も来られればよかったのにね」
嫁(主人公)と姑の、年に1度の恒例2人旅の話。最初は自分で「行きましょ!」と言いだしたもんだから、最近は気まずいのに断れないでいるジレンマ。夜中に1人で散歩に行くあたり限界なのだろう。「私と洋一さんが離婚したら、驚かれますか」。思わず訊いてしまうほどには、奥さんはハーフのルイくんにご執心。

「住宅地」
3人の視点から語られる、何かの配送拠点と中学校の近くの住宅街の日常。
なんとなく中学生を眺めているのが好きな、配送トラックのおじさん①。
そのおじさんを不審に思いつつも危害は加えなさそうだし大丈夫か、と静観し、しかしここがなぜ一等地と呼ばれるのか、中学生なんぞマナーがなっていないのに、と思ってうんざりしており、挙句この頃夫が浮気しているような気がするがつっこむことはあえてしない主婦。
①の友人で、主婦さんが犬を散歩しているところに出くわし、少し言葉をかわして「この人見た目キツいけど、意外と優しいのかも」と気づくおじさん②。
『つめたいよるに』の「南ヶ原団地A棟」と似ていて、同じような対象を3人の視点から書いている。

「どこでもない場所」
バーで知り合った3人とバーの店長4人が、昔の恋人の話をしていたら意気投合してしまい、牛丼屋に行く話。
主人公とその女友だちが話していると、「あなたたちこっちにきなさい」とオネエの男性に声をかけられる。顔見知りだが、主人公は彼の名前が思い出せない――彼の猫の名前は思い出せたが。そんな不思議な関係であっても、仲良くなれる人はいる。
ひとりだけ昔の恋人の話をしなかったオネエは、3人が昔の恋人と出会った場所にグラスを捧げるのを見、「じゃああたしは、どこでもない場所に」。けれど、イイ人に出会うのに、場所なんて関係ないのかもしれない。

「手」
男がいない主人公。妹に焚きつけられて、何度か身体の関係はもったがただの友だちである男が家に召喚される。若干デリカシーがない(ように私には見えたが表現がふさわしくないような気もする)男は、彼女の家で勝手におでんを作り始める。主人公は当初うんざりしていたものの、おでんは美味しかったよう。最近、皮膚の脂が抜けて以前より薄く小さくなり、指輪がゆるくなった「乾いた葉っぱみたい」な手を気にしていた主人公。おでんを食べて男にその手を見せると、つやつやしていたので慌ててひっこめることになった。一瞬そういう雰囲気になるが、あっさりと別れる2人。主人公は、妹に抗議の電話をするのであった。「『予期せぬことにわずらわされちゃったわよ』妹は笑っていた。肌寒い、春の、日曜日のことだ」。主人公には「予期せぬこと」が必要で、うんざりしながらもそれに満たされてしまう姉の姿が、妹にはお見通しだったのだろう。

「号泣する準備はできていた」
表題の作品。好きな男から「木のないクリスマスツリーの夢を見た」と電話がある。その男には別に好きな女で身体の関係があるのがいて、フラれているようなものだが、主人公は幸せになってしまう。好きな男の身勝手さに翻弄されているように見えるが、彼女は「強い」ので、彼の前では寂しい顔はしない。フラれたときも、彼女は「たぶん泣きだすべきだったのだ。身も心もみちたりていた恋が終わり、淋しさのあまりねじ切れてしまいそうだったのだから」。しかし、そうはしなかった。できなかった。きっと「号泣する準備はできていた」のに。準備はできていたのにしなかったのは、彼女が「自分は強くあるべき」と、半ば強迫観念に囚われているからなのだろうか。
主人公は姪と仲良しで、その日も、彼女のバイオリンのレッスンの送迎をしていた。姪は言う、「文乃ちゃん(主人公)は強いからねえ」。姪もいずれ恋をしなくてはならない。そのとき、自分のような目――自分をフッた男から意味ありげな電話がかかてくる――に遭っても、「ちゃんと正気を保っていられるように」と願う主人公。

「そこなう」
妻帯者と恋愛関係にあった主人公。彼が離婚したので晴れてりっぱな恋人になれたはずなのだが、「歯止めがなくなってしまった」からか、彼女は彼との関係が持続しないような感覚に囚われる。不安を口にする彼女は、ふと自分に好意を寄せている男の存在を漏らす。彼女もそのことに関してまんざらでもなさげ。すると、彼は「不安定な状態で付き合っていたのだから仕方ない」「おれにもそういう人はいた」。つまり、妻と主人公以外にも女がいた。彼女は言いようのない感情に苛まれるが、自分が蒔いた種、覆水盆に返らず。もう以前の2人の関係性がそこなわれてしまったことを感じながら、2人でいることを選ぶ。
主人公がある種安定していた関係をそこなってしまった。そういう話。

レビュー投稿日
2018年10月4日
読了日
2018年10月4日
本棚登録日
2018年9月27日
3
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