アンナ・カヴァンが『氷』を描いた当時(1967)、気候変動と言えば専ら寒冷化を意味していた。氷の壁が迫り来る情景は、半世紀を経て温暖化が人類存亡の危機とまで評される現代からみると中々イメージしづらいが、当時はリアルな恐怖だったのであろう。
文章の途中で何度も視点が切り替わるため極めて読みづらく、通読してもあまり自分の解釈が合っているのか自信がない。
初め主人公はインドリの研究員だと思っていたら読み進めると軍人になったり、少女は北欧神話に擬えた氷の侵略を阻むための竜への生贄だと思っていたら長官の娼婦になったり。回収されない伏線が多すぎて文章が非常に混乱している。
ただ、カミュの『ペスト』やサラマーゴの『白の闇』のように、危機的な閉鎖空間に於ける集団心理を描いているというよりも寧ろ、主人公が抱く少女への執念、焦燥、愛憎といった感情が壁の接近と共に湧き上がる、そうしたレトリックとして氷は使われている気がした。
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- 感想投稿日 : 2021年11月19日
- 読了日 : 2021年10月28日
- 本棚登録日 : 2021年10月28日
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