気分上々

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング) (2012年3月1日発売)
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連続で短編集を読んで、短編小説の良さがわかりかけてきたところに巻末、あとがきで「最後にー私は…」で始まる作者の想いをみつけた。
「短編小説の良さは、畢竟『人生、短いなかでもいろいろ起こり得る』ことを、その短い枚数の中で仄めかせることができることではないでしょうか。重要な何かがもたらされるのに、必ずしも長い時間は必要とされないかもしれない。」
この言葉を納得させたのが、この本の「彼女の彼の特別な日 彼の彼女の特別な日」だった。

ウエルカムの小部屋
小部屋=トイレの自動便座のこと。確かに小部屋に入ると「こんにちは」の挨拶のように蓋が開く。時には「お待ち申し上げておりました!」と言わんばかりに横を通るだけで反応することも。(これは、家の小部屋の扉が完全に閉まっていないので、反応されるだけなのだが)

けれど、この作品の男性は有り得ない。最低!そして、そんな男を好きになる主人公・私もどうにかしている。しかも誰もが認める知性と容姿を備えた素晴らしい婚約者を別れ、自称発明家のさえない男と結婚するなんて!なんて人を見る目がないのだろうと、苛立った。それなのに夫を嫌いになれない理由を分析する主人公・私には感服する。

彼女の彼の特別な日
元彼の結婚式の帰りに立ち寄ったバーで、声をかけられた男性に望みを伝える女性。
降参!!たった4ページのこの言葉「時を戻せない僕はあなたの願いを叶えることができない。よって、僕の願いであるあなたの携帯電話も聞くわけにはいかない。でも、もしもその新郎の番号を教えてくれたら、あなたの伝えたかった言葉を代わりにお伝えする事はできますが。」バーで隣にいる女性を口説く軽い男だと思ったのに、この言葉によってそれまでの男性のイメージが一変した。もし自分が主人公・私なら、予期もしていないが、この先の自分を好きになるために一番言って欲しい言葉。この男性の優しさに心が暖かくなった。

彼の彼女の特別な日
大好きな祖母の四十九日の帰りに初めて一人で立ち寄ったバーで、生まれて初めて女性に声をかける男性。
彼女に伝えた言葉の思いが解り、『普通…特には感銘する思いではなかったのか…』と、少しがっかり。でも、この年齢の男性にしてはおばあちゃん子ですれてない孫だと思った。

この素直な二人が、恋して幸せになることを想像したい。

レボリューション
「自分革命」を起こすべく親友との縁を切った女子高生・あたし。
私は、あたしの親友イズモに夢中になってしまった。一見、年寄りくさいがとてもスマートでなんといっても味がある。親友のあたしにいきなり絶交を言い渡されても、翌日、あたしの下駄箱に忍ばせた友を思う手紙。17歳の高校生らしからぬ冷静さと友を思う気持ちに思わず、手を叩きたくなる。17歳の頃の私だって、『カッコいいなぁ〜。こんなイキな高校生になりたかった』と思ったであろう。価値は自分で決めるもの。自分にとって何が大事かは自分以外の人間には決められない。そして、誰が何と言おうと自分の価値基準は自分で決めて判断する。分かってはいるけれど、そうもいかない時もある。
この後、あたしはイズモの指導の元(笑)、自分の価値基準と協調と勇気のバランスを覚えていくのだろう。

本物の恋
8年前、失恋に号泣する見ず知らず男性の姿に本当の恋を感じ、恋に憧れた私・チズ。
人目に憚れることなく、号泣できるほどに人を愛してみたい。と、自分は思うであろか?
そんなに人と巡り会いたいと憧れる一方、絶対に自分のペースを乱されそうで怖い。できれば、号泣されるほど愛されたい。いや、やっぱり、私は2人が同じくらいの恋心がいい。別れた時に彼あるいは自分がストーカーにならないように(笑)ではなく、別れた時に同じくらいの想いなら、自分の辛さと相手の辛さが同じだと思って、あきらめることもできるから。
人生最大の衝撃を与えたあの涙に向けられた対象が8年後にわかった時、私・チズは衝撃を受けたが、私は驚愕した。意外なオチに作者のユーモアを感じる。

東の果つるところ
家系に伝わる理不尽な「因習」に苦悩する女優・私。
因習から逃れるために、家を出たのだが、結局、因習から逃げきれない。結局、逃げようとして考えるほどに片時もそのことが頭から離れず、それにより自分の人生までもが翻弄されて終わってしまう。好きな人が左右対象の名前なら、その名前が好きにならないのか?名前で好きになったのかと、主人公・私の思慮の軽さを思ってしまった。

本が失われた日、の翌日
世の中から完全に本が失われた。
本が消失したことで、私の職業ももはや作家ではない。肩が軽いと言うのは、単に背負っていた本がなくなったからと言う意味でなく、作者にのしかかる重圧がなくなり軽くなったと、言っているように聞こえた。しかし、活字がなくなっても、人は活字を求めて、文字を刻んでいく。文字は人に必要とされていること、作者自身も亡くなってしまうと寂しく感じているように思えた。

ブレノワール
母・アネットの危篤の知らせを聞き、パリの街からブルターニュ地方へと飛び立った僕。父を失い、幼い僕を連れ親戚の家に身を寄せたバロウ家のやり方となじまず家を飛び出した僕と残った母の間にでき溝。
「親の心子しらず」、「孝行のしたい時分に親は無し」が頭に浮かんだ。
幼い子供守るための母親の愛情を母が亡くなった後でわかった時の僕の気持ちは如何なるものか。この先、僕の気持ち母に向かっていくことを考えると、親の偉大さ、愛情を自分の親に置き換えた。

ヨハネスブルグのマフィア
南アフリカ、タンザニアへの旅行を控え、黄熱病の予防接種に出かけた私が待合室で出会った男性と付き合う。
ヨハネスブルグの空港でスーツケースを開けるとき、双眼鏡とカメラが入っているとマフィアに取られてしまう。だが、プロ意識を持つ彼らはそれ以外は盗まない。『えー、だったら、アメリカよりマシ』と、思った。ロサンゼルスで、お土産に買ってきたブランドのカバンがなくなった。スーツに鍵をかけずにチェックインするようになった年、当時まだ今のようなSTAロック付きのスーツケースではなかった。まさか無くなるとは思ったなかったので、できるだけスーツケースに入れようとしたのが間違いだった。結局、バックは戻ってこなかった。マフィアに少し好感を持った。

気分上々
オレ・柊也の父の遺言は、「いい男(高倉健のような男)になれ」だった。父が息子に残した教え(希望)を中二学生は無意識のうちに守っていた。
好きな依林が同級生・翼と交わす会話や態度が気になる。中学2年の男子が、父の教えである「寡黙な男」を無意識に貫くって、やはり父の子、素養があったのだ。中学生なんて、これでもかと言うほど男女問わずよく喋り、よく笑い、よく怒り(よくキレ)、自分を外に表現する第二次感受性を増幅期だと思っているので、この父親の教えはある意味、オレの外への表現能力を下げはしないのかと心配してしまう。一方で、寡黙なこんな中学生男子に憧れる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年6月13日
読了日 : 2020年6月13日
本棚登録日 : 2020年6月13日

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