人びとのための資本主義 市場と自由を取り戻す

  • NTT出版 (2013年7月26日発売)
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 しごく全うなことが書かれてあった。

 スポーツでもビジネスでも見られる賃金不平等拡大の原因は一言に要約できる。グローバリゼーションだ。グローバリゼーションは競争を激化させ、最高であることへの報酬を高め、そうして不平等を拡大している。

 …競争市場は資源の効率的な配分をもたらすのだ(いわゆる厚生経済学の第一定理)。

 (企業は)独自のやり方で政府に無償の助成を差し出させて、いっそう潤っていく。だから退勤を費やしてワシントンでロビー活動を行なうのだ。しかし結果として自由市場システム全体の状態は悪化していく。…企業人にビジネスのルールを定めさせるのは危険である。救済策が市場の機能をいかに弱めるかを考慮しないからだ。

 知的エリート層と人民の乖離は、最も危険な形のポピュリズムを容易にかき立てられる―とくに腐敗が認知され、その結果としてワシントンへの憤りが高まっているときには。知的エリート層が信頼できなければ、反知性主義がはびこり、政治討論の質が劣化する。この劣化が次には、知的エリート層にまたぞろ優越感をもたせる理由となり、その感情が集団思考を悪化させ、さらなるポピュリズムの反動をかき立てるのだ。

 規制の執行と陳情のコストも計算に入れれば、当初は非効率に見えた多くの選択肢が、大局的に見れば効率的になる。だから規制を簡略化すると、抑えたい歪みを抑えるという点では非効率になるだろうが、実際は総費用を減らし、透明性を高める。

 …捕獲を抑えるためには限定的かつシンプルな規制が必要であり、内部告発者の報酬システムで守らせるのが望ましい、…。ロビー活動を防ぐ最善の方法は、産業助成をなくす法律を導入し、不公平な助成による損失を取り戻す訴えを起こす権利を市民に与えることで支援することだ。

 税には三つの潜在的な機能がある。税収を上げること、インセンティブを修正すること、所得を再分配することだ。

 経済学の重要な知見の一つとして、行動への影響が最小の人に最大に課税すべきだ、ということがある。

 経済学者は、非効率性を市場の欠落と言い表わすことを好む。市場は個人の私利を活用して、公益を生み出す効率的な方法を提供する。よって、そうした活用ができないとき、市場が欠落しているに違いないと考えるのだ。たとえば公害は、汚染物質排出権の市場の不在の影響と見なせる。だから、驚くにはあたらないが、経済学者は欠落していると思われた市場(つまり排出量の市場)を創出することで公害問題に取り組もうとした。
 私が思うに、究極の欠落している市場とは、市場自体のルールを設定する権利の市場である。社会全体が競争市場の恩恵をこうむっているのに、誰もその市場を創出する費用を進んで払おうとしない。原則として、政治的競争がこの欠落したインセンティブを提供するべきだ。つまるところ民衆が競争市場から利益を得るならば、この原則を擁護する政治家が選挙に勝つべきだ。あいにく政治の市場は、権力の不均衡と、有権者の経済問題についての無知で歪められている。どの政策が本当に競争を推進するのかを有権者が知らされなければ、政治家はその政策を推進したところで報われない。歪められた政治の市場は、クローニー資本主義の勝利を許してしまう。私たちは、社会規範が市場の失敗への対処に役立つのを見てきた。競争を推進してクローニー資本主義に抵抗する努力に社会的名声を与えることが必要だとの認識を高める、その助けに、本書がなることを私は願っている。

 クローニー資本主義を抑える最良の方法は、ロビイストの競争の公平を保つことである。完全に公平にはならなくとも、データ開示、内部告発法令、クラスアクションがきっと現在の偏向を正す助けになるはずだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 本・雑誌
感想投稿日 : 2020年4月29日
読了日 : 2020年4月29日
本棚登録日 : 2020年4月29日

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